初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
「湊はあの子のどこにそんなに惹かれてるのかしら」

 聡子は鏡に映る自分の姿を見ながら、ぽつりとつぶやいた。
 必死に紫遥を庇い、自分を憎しみのこもった目で睨みつける息子を思い出すと、胸が締め付けられるような思いがした。

「いいか聡子、もう湊に構うのはやめろ」

「……」

「うちにはあと二人も男兄弟がいるじゃないか。それもあいつよりよっぽど優秀で、使えるコマだ。俺たちが湊に執着する理由がどこにある?」

「湊だって私の子供です。心配するのは当然じゃないですか」

すると、夫は大きなため息をついて言った。

「あいつはお前を母親だと思ってないさ」

「……」

 湊が自分を嫌っているのは知っていた。息子を縛りつけ、自由に飛べる羽を奪い、自分の思い通りにしようとした代償だろう。

 自分は最後にいつ、あの子と穏やかな会話を交わしただろうか。いつ、あの子の笑顔を見ただろうか。
 いつ、あの子の言葉を聞き、そしていつ自分の言葉で、湊が自分の大事な息子であるということを伝えただろうか。

 聡子は、息子を心配していると言いながら、湊の自由な生き方を妬ましく思っている自分がいることに気付いた。
 だから、母親だという免罪符を使ってどうにかして自分の同じ窮屈な道に連れ出そうとしていたのかもしれない。

「だから湊は、私たちから自由にしてくれたあの子が大事なのね」

 湊が家を出ていく前は、夫も今の聡子と同じように湊を縛り、支配しようとしていたのだ。しかし、夫は気付いていないかもしれない。
 
 聡子の言葉は、夫には届いていないようだった。
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