初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
 新しいシャツに袖を通しながら気持ちを落ち着かせ、一階に降りると、真夏が興奮したようにテレビの方を指差していた。

 「お姉ちゃん見て!湊さんが出てる!」

 テレビに出てるのなんていつものことじゃない、と言いかけ真夏が指差す方に目を向けると、テレビ画面にはマイクを向けたたくさんの記者の間を颯爽と歩く湊の姿があった。
テロップには「MINATO電撃結婚!?」の文字が並んでいた。

 「結婚報道って……これ、相手はお姉ちゃん、だよね?」

 真夏の疑問を代弁するかのように、テレビの中の記者が湊に尋ねる。

 「お相手は学生時代の友人と噂されていますが、事実なんでしょうか?」

 「相手に関してはノーコメントでお願いします。一般人の方なので」

 湊は爽やかな笑顔を記者に向けてはいるが、その目は冷ややかだった。
 テレビ画面には湊をかばう町田の姿も映し出されおり、この報道は予期せぬものであったことが伺える。

 紫遥が湊とのスキャンダルを撮られてしまうのはこれで二度目だ。
 結婚をすると決めていたものの、こんな風に世間で騒ぎ立てられているのを見ると、気が気ではない。
 紫遥は携帯を取り出し、湊にメールを送った。
 




 ——1時間前。

 今月から放送が始まるドラマの番宣で、湊は昼の情報番組に出演することとなっていた。
 生放送は何度も経験があり慣れているが、マネージャーの町田はいつも本番前になるとそわそわし、突然色々な問題が頭を巡るようだった。
 今日も湊の周りを囲むようにぐるぐると歩き回っていた町田は、急に立ち止まり湊に尋ねた。

 「そういえば、紫遥さんとどうなったんですか?」

 「結婚のこと?」

 「紫遥さん、聡子さんに呼び出されてたじゃないですか。結婚はもちろん、聡子さんに隠れて交際なんて無理があるんじゃ……」

 「この国は親の許可がないと交際もできないのか」

 「そういうわけじゃないですけど、結婚できないってわかりながら付き合い続けるのは紫遥さんも辛いんじゃないですか?」

 「結婚の許可ならもらったよ」

 「え!?」

 喉の奥に指を突っ込まれたかのような衝撃を受け、町田の声はひっくり返った。
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