初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
全てを諦めた8年前の夏、頑張って入った高校を退学することよりも、必死に勝ち取った美大の推薦を辞退することよりも、湊に会えなくなることが何より辛かった。

 だからこそ、初めて恋をした相手が目の前に現れ、彼に求められた時、純粋に嬉しかったのだ。ただ身体を重ね合わせる行為はおそらく彼にとっては日常茶飯事、なんの意味もないのだろう。けど、自分にとっては失われた青春時代を取り戻せるような、そんな気がしていた。
 
 だが、もうあんなことは二度と起こらないし、起こさない。
 
 そう決意して、紫遥は朝食の準備を始めた。
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