初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした

5 スキャンダルは突然に

 カーテンの隙間から力強い光が漏れ始めた午前8時。湊は眠気まなこをこすりながら、上半身を起こした。そして、思い出したようにパッと隣を見ると、そこには誰もおらず、部屋を見渡しても昨夜の痕跡は何も残っていなかった。
 
「夢、か……?」
 
 と呟き、いやそんなはずはないと冷静になる。
 
 紫遥は自分が目を覚ます前に、部屋を綺麗さっぱり片付けて帰ったのだ。まるで今日のことをなかったことにするかのように。

 今まで、どうにかして一夜限りの関係では終わらせないように、何かしらの痕跡を残して湊との繋がりを持ち続けようとする、女狐のような女はやまほどいたが、自分との一夜をなかったことにする女は初めてだった。

湊はシーツの皺ひとつ残さない、紫遥の徹底ぶりに、眉をひそめた。

 高校生ぶりに会う紫遥は、一層美しくなっていた。儚げに見える色素の薄い瞳や、上品に尖った鼻先、ぷっくりとした、しかし控えめな唇はあの時のままだったが、彼女がまとう独特の雰囲気は、より色濃く、湊の欲望を掻き立てた。

 そして、一夜過ごした後に、湊がこうして抱いた女のことを思い出して、物思いにふけることもまた、初めてのことだった。

「一夜限りの行為なんて腐るほどしてきたんだろうな」
 
 そうため息混じりに呟いて、布団をめくると、白いシーツにいくつかの赤い斑点が散らばっているのが見えた。

 一瞬思考が停止する。

 (血?だよな。なんで?どこか怪我したか??)
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