初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした

6 専属契約

 六本木にあるオフィスビルの9階に、紫遥が派遣社員として働く会社はあった。

 主に化粧品の自社ブランドを扱っている企業で、元は広告制作会社だったこともあって、カメラマンやデザイナー、コピーライターなど、広告制作する上で必要不可欠な人材が多く在籍しており、紙のポスターからウェブCMまで、全て自社で制作している。

そして、紫遥の仕事は主に、デザイナーのアシスタント業務や、自社の商品を紹介するウェブ広告の動画編集だった。

 
 パソコンに向かって朝から休まず、撮影データを編集していた紫遥は、時計の針が12時を指しているのに気付き、大きく伸びをする。窓の外を見ると、通勤時に降っていた雨はいつの間にか止み、晴れ間が出ていた。
 
 同じ派遣社員の女の子が複数人、ゾロゾロと財布を持ってオフィスから出ていく。入社当初は紫遥もよくランチに誘われたものだが、紫遥にとって1000円のランチは許されない贅沢であり、「お弁当を持ってきているので」と毎回断っていたら、いつの間にか誘われなくなった。
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