初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
 紫遥は一気に押し寄せる様々な事実の波に、押しつぶされそうになっていた。
 
 そういえば、高校時代に久我家のことは少し耳にしたことがある。父親は有名企業の社長、母親は元アナウンサー、兄2人はそれぞれ雑誌にとりあげられるほど優秀だと……。

 とはいえ、まさか自分が働いているのが、彼の兄が経営する会社だとは、夢にも思わない。

 
戸惑う紫遥の様子を見て、町田が湊の代わりに状況を軽く説明した。

 「今、MINATOは大事な時期で、女性とのスキャンダルは絶対に避けたいんです。芸能人との真剣交際ならまだしも、一般女性をたらしこんで遊んでいるだなんてことになれば、彼のイメージはガタ落ちです。ですので今日は、紫遥さんに御協力をお願いしに参ったというわけです」

 町田の様子を見る限り、自分たちの間に何があったかは、湊の口から聞いているのだろう。

 “一般女性をたらしこんで遊んでいる”、その言葉に心がズキっと痛む。

 先日の出来事は、事実そうだったのかもしれないが、他人の口から改めて聞くと、惨めな気持ちになった。
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