初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
「失礼します」

 男の様子は不審だったが、顔を見られたくないのだろうと推測した紫遥は、できるだけ男の顔に視線を向けないように、おそるおそる部屋に入った。

 
 
 部屋に入ると、モノクロのインテリアで統一された20畳ほどのリビングが目の前に広がった。
 
 カーテンから差し込む夕日は普段紫遥が見ているものとは違い、ここが47階であることが思い出される。
 
「改めまして、Bistiaの仮屋紫遥です。本日はご指名ありがとうございました」

「……」

「本日は夕飯作りと掃除、洗濯のコースですが……」

「洗濯はいいです」

「かしこまりました。では、余った時間で作り置きのおかずを何品か作らせていただきますね」

「はい」

「キッチンお借りします」
 
 男は口数が少なく、警戒心も強いようだった。部屋に入ってしばらく経っても、帽子もサングラスも身につけたままだ。

 それでも意思疎通には困らないが、こちらとしては不安だった。自分は、素顔も見せられないほど、信用に足らないスタッフに見えるのだろうか。
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