初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした

8 ぎこちない嘘

 「まさか紫遥ちゃんがMINATOと同じ高校だったなんて!すごいじゃん!!!」

 真夏はどこで情報を得ているのか、紫遥よりずっと芸能関係に詳しく、もちろん湊のことも当然のように知っていた。

「先輩とは同じ美術部だったんだよ。俺はほとんど部活もいってなかったし、絵はまったくだったけど、先輩はすごく絵がうまくてさ」

「そうなんですよ!紫遥ちゃん、賞もいくつも獲ってて、美大も推薦決まってたくらいだし!なのに、私のせいで高校も中退しちゃったから、もったいないですよね」

 真夏がそう言って、唇をツンと突き出すと、横から紫遥の鋭い声が飛んだ。

「真夏、その話はいいから」

 紫遥のピリついた表情を見て、はーい、と真夏は渋々口を閉ざした。
 
湊は、「私のせい」という言葉に引っかかったが、それはまた真夏と二人きりになった時に聞けばいい。紫遥の様子を見ていると、どうも湊には知られたくない内容のようだった。

「とりあえず、先輩と真夏ちゃんには俺のマンションに住んでもらうから、色々必要なものを今から揃えに行こう」

「もしかしてIKEAですか?ソフトクリーム食べたい!」

「はは、IKEAではないけど、アイスクリームは用意するよ」

 湊は目尻を下げ、優しく微笑んだ。
 
 スキャンダルを撮られてしまったのは、黙って早朝に家を出てしまった自分のせいだ。湊は決して直接的には自分を責めなかったが、会話の節々で、自分に対しての苛立ちが感じられる。

 だが、紫遥への思いは別にして、真夏に対しては優しく接してくれているようで、紫遥は安心すると同時に、複雑な思いで二人を見つめていた。
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