初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
「だから、直接会って話したいと思ったんです。話して、過去の呪縛から逃れたいって」

「……」

「今の俺なら、冷静に先輩の話を聞けます。だから……」

 紫遥は湊の真剣な眼差しを見つめ、また自分が期待してしまっていることに気付いた。

 この人に話せば、こんな自分を受け入れ、慰めてくれる。そう思ったあの日、高校生だった自分は湊に助けを求め、そして深く傷つけてしまった。

 それなのに、まだ自分勝手にも、湊に頼ろうとしている自分がいた。彼が自分に向ける視線は好意的なものではなく、ただ過去に、うやむやになってしまったことに対する好奇心なのに。

「改めて話すようなことは何もないよ。あの日はそういう気分だったの。かっこよくて、学校でも人気だった久我くんに、私の初めてをもらって欲しかっただけ。みんなに自慢したかっただけだよ」
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