初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
 会社帰り、駅のホームで、紫遥は香奈子に頼まれた合コンについて思い出して、憂鬱な気分で電車を待っていた。

 香奈子は女性社員の中でも中心的な存在で、話しているといつの間にか香奈子のペースに巻き込まれ、面倒な仕事を押し付けられてしまうことも多々あった。
 
 仕事ならまだしも、今回は【合コン】だ。今まで行ったこともなければ、誘われたこともない。

 香奈子には、町田は忙しい人だから呼んでも来てくれないと思うと言ったが、「それなら仮屋さんが合コン参加してくれるだけでいいから!」といつの間にか紫遥の参加が決定してしまっていた。

 町田が目的なのではなかったのか、と聞く暇もなく、とんとん拍子で合コンの日程もメンバーも決まってしまい、空白のカレンダーに突如追加された【合コン】の文字に、思わずため息が出た。

 会費は男性が払ってくれるから心配しないで、とは言われているが、そういう問題ではない。そもそも初対面の人たちと一緒に飲みにいくこと自体が心配だった。

 最近の流行りも知らなければ、気の利いた話をできる自信もない。香奈子のように愛嬌があるわけでもないし、男性側も私のような女がいても、興醒めするだけなのではないだろうか。

 

そう思ったものの、昨日自分が午後休をとったせいで、香奈子が代わりに自分の仕事を請け負ってくれたと聞き、断るわけにはいなかった。

 とりあえず一度だけ参加すればいい。真夏も家で待っていることだし、一次会だけ参加して、そのあとは理由をつけて帰れば……。
 
 

そんなことを考えながら、電車に乗り込むと、背後から突然肩を叩かれた。

「仮屋、お疲れ」

「篠原チーム長……お疲れ様です」

 そこに立っていたのは、篠原だった。
< 67 / 258 >

この作品をシェア

pagetop