初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
 篠原がパッと紫遥から身体を離す。その瞬間、紫遥は勢いよく息を吐き出し、今まで自分が呼吸を止めていたことに気付いた。
 
 
全身黒づくめの服を着てキャップを深く被っていた男は、表情こそ見えなかったが、その声色に相当イラついているのがわかる。

「何やってんだって聞いてんだよ、おっさん。警察に通報されたいの?」

「け、警察!?俺はただ恋人と抱き合ってただけで……」

「この人は恋人なんかじゃありません!」

 紫遥は息も絶え絶えに、目の前で目を見開く篠原を指差し、叫んだ。

「他人です!なんの関係もない人です!」

「おい、仮屋!何言って……」

「だってさ。知らない人にいきなり抱きつくとか犯罪でしょ?違う?」
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