初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
「普段はいい人なんだけど、いざそういうこと言われて、抱きつかれると気持ち悪くて。そう言えば普段からボディータッチ多かったよなーとか思い出すと……気付いたら動けなくなってた」

「紫遥ちゃん……」

 紫遥の顔は徐々に血の気を取り戻してはいたが、時折自分の腕をさすり、止まらない震えを抑えようと必死だった。

 別に乱暴されたわけではない。けど、突然男に触れられると、紫遥の身体は激しい拒否反応を示すのだ。



 湊は一通り紫遥の話を聞いた後、まっすぐ紫遥の目を見て言った。

「とりあえず今の会社は退職しましょう。上司から逃れて、部署異動したとしても、同じ会社で働いてたら嫌でも顔を合わせるだろうし。有給はどれくらい残ってます?言いにくいなら代行サービスを使って辞職届出すのも手ですよね」

「ううん、退職はしない」

 紫遥は躊躇うことなく、そう言った。

 湊は紫遥が断言したことに驚き、立て続けに尋ねた。
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