初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
「家って……久我くんの仕事部屋のこと?」

「いや、仕事部屋じゃなくて俺の住んでる家です。あの男にこの場所も知られちゃってるわけだし、またいつ付き纏われるかわかんないじゃないですか。俺の家だったらセキュリティーもしっかりしてるし、万が一場所がバレたとしても、男と暮らしているとわかれば、あの男だって身を引くでしょ」

「けど……」

 そんな急に他人が住んでいる家に居候をさせてもらうなんて、ましてや湊は人気俳優で、世間から注目を集める人物だ。そんな彼の家に自分と真夏が住むなんて、またスキャンダルでも撮られたら、今度こそ言い訳ができない。

「様子見で、短期間の話ですし、準備さえしておけば、マスコミなんて怖くありませんよ。どうせ来週仕事部屋の方に引っ越しする予定だったんですから、少し早まっても問題ないでしょう。移動する荷物があるなら、あとから町田に頼んで車で取りに来たらいいんだし」

 突然こんなことになって申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、今日の篠原の様子を思い返すと、湊の言葉に今は甘えた方が良いかもしれない。

「あの、私……」
 
 紫遥が湊の提案に乗ろうと決め、顔をあげると、湊はそっけない口調でこう続けた。

「遠慮して断るとかやめてくださいね。今、先輩に何かあると困るのは俺なんで」

 湊は気怠そうに首の後ろをかきながら、そう言った。
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