初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした

2 あの日の思い出

 紫遥が自分を見て絶句している様子を見て、湊はせいせいした気持ちで微笑んだ。

 湊は今や20代の若者であれば、知らない人はいないと言っても過言ではないほどの人気俳優だ。毎日仕事に忙殺され、本来ならば今日も、家事代行スタッフの対応はマネージャーに任せ、自分は部屋にこもって台本を頭に叩き込むはずだった。

 しかし、事情が変わったのだ。
 
 つい先日、デビューから6年、ずっと憧れていた監督の映画の主演が決まった。
 そして、撮影開始から3日後、大胆な濡れ場のカットを撮る日、監督から「お前のラブシーンはリアルじゃない。互いに貪り食うようなセックスをしたことがないのか」と屈辱的な指摘を受けたのだ。
 そのカットは結局OKが出ず、別日に撮影し直すことになった。
 
「リアルじゃない」と言われても、もちろん湊には女性との交際経験もあったし、一夜限りの関係をもったこともある。さすがにアブノーマルなプレイは経験がないが、一般的な男よりははるかに多くの女を抱いているはずだ。
 それなのに、自分の演じるラブシーンのどこがリアルじゃないというのか。
 
「貪り食うようなセックス……?学生じゃあるまいし……」

 とつぶやいた瞬間、湊の頭の中に、高校時代の苦い記憶、仮屋紫遥についての記憶が蘇ったのだ。
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