初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
湊は断られないために、わざとそんな態度をとったのだが、紫遥がそれに気付くはずもなく、湊の様子を見て、「うん」とだけ言って、俯いた。

 
 湊は自分のことを心配しているわけじゃなくて、自分がいないと困るから言っているのだ。
 明日も早朝から仕事があるだろうに、こんな夜遅い時間から突然他人を家に呼ぶのなんて嫌に決まっている。それなのに、自分は湊が優しさだけで提案しているものだと勘違いしていた。

 紫遥は俯いたまま、口を開いた。

「じゃあ、お言葉に甘えて今日からお邪魔します。ごめんね、色々迷惑かけて」



 
 湊がタクシーを呼んでいる間に、紫遥と真夏は急いで最低限必要な荷物をボストンバッグに詰めていった。
 数日分の衣類や化粧品、真夏の教科書類……それらをパンパンに詰め込むと、今から夜逃げするかのような背徳感でいっぱいになる。

 忘れ物はないかと、寝室にあるタンスの中を念入りにチェックしていると、一番下の段に端に、綺麗に畳まれた派手な花柄のワンピースが見えた。
 それは、母のお気に入りの洋服だった。
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