初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
ふと、壁にかけられている1つの絵画が目に入る。マルク・シャガールの『天蓋の花嫁』だ。

 豪華な花々を前に二人の恋人が抱き合っている。女性がウェディングドレスを着ているのを見るに、これからの未来に希望を描く新郎新婦を描いたのだろう。



 私にはこんな絵は描けなかった。

高校時代、描きたいと思うのはいつも不安げな表情や、枯れて朽ちていく花々、誰もいない教室、月の光に照らされ、揺れるブランコ。

いつもひとりぼっちで、誰とも馴れ合う気はなくて、けど、本当は誰かに自分の存在を気付いて欲しくて、そんな孤独を、絵で表現するのが好きだった。


 あの日、初めて湊に出会った日も、彼を描きたいと思ったのはそんな理由からだった。
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