初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした
8年前、美術部の幽霊部員だった湊は、2つ上の先輩である紫遥と出会った。
その日はなんとなく、入部してもう1ヶ月経つし、一度くらい部活に参加してみるかという軽い気持ちで美術室に足を踏み入れた。
湊が通っていた高校の美術部には数十名の生徒が在籍しているが、そのほとんど幽霊部員であり、美術部は塾や習い事で忙しい生徒の所属先になっていた。湊ももちろん例に漏れずそのうちの一人で、大学受験のため、そして内申のために、美術部に在籍していた。
しかし、そんな美術部にも毎年数名は「美術好き」な変わり者が入部する。それが紫遥だった。
湊が美術室に入ると、真っ白なキャンバスに向かい合う紫遥がいた。
さらりと風に揺れるこげ茶色の髪や、綺麗な輪郭線が夕日に照らされ、まるで絵画のように橙色に色づいていた。部屋には紫遥のほかは誰もおらず、まるで彼女を見守っているように、部屋の中のすべての物質が静かにじっと息を潜めているようだった。
「入らないの?」
そう声をかけられ、湊はハッとする。
「俺、1年なんですけど、今日初めて来て……」
そう言って初めて、自分が絵の具も筆もキャンバスノートも、美術部員として必要なものを一つも持ち合わせていないことに気が付いた。
その日はなんとなく、入部してもう1ヶ月経つし、一度くらい部活に参加してみるかという軽い気持ちで美術室に足を踏み入れた。
湊が通っていた高校の美術部には数十名の生徒が在籍しているが、そのほとんど幽霊部員であり、美術部は塾や習い事で忙しい生徒の所属先になっていた。湊ももちろん例に漏れずそのうちの一人で、大学受験のため、そして内申のために、美術部に在籍していた。
しかし、そんな美術部にも毎年数名は「美術好き」な変わり者が入部する。それが紫遥だった。
湊が美術室に入ると、真っ白なキャンバスに向かい合う紫遥がいた。
さらりと風に揺れるこげ茶色の髪や、綺麗な輪郭線が夕日に照らされ、まるで絵画のように橙色に色づいていた。部屋には紫遥のほかは誰もおらず、まるで彼女を見守っているように、部屋の中のすべての物質が静かにじっと息を潜めているようだった。
「入らないの?」
そう声をかけられ、湊はハッとする。
「俺、1年なんですけど、今日初めて来て……」
そう言って初めて、自分が絵の具も筆もキャンバスノートも、美術部員として必要なものを一つも持ち合わせていないことに気が付いた。