初めてを捧げたのは、人気俳優になった初恋の人でした

14 突然の訪問者

 「おはようございます。お迎えにあがりました、中村です」

 心地よい柔らかな男の声が紫遥に届く。

 (迎えって?なんのこと?)

 「久我様に仮屋様の送迎の依頼を受けて来たのですが……」

 どうやらドアの前に自分たちがいることに気づいた上で、話しているようだった。

 彼によると、湊が送迎車を自分たちのために用意していてくれたらしい。ドアの向こうから伝わる男の雰囲気は悪いものではなく、むしろ丁重に対応しなければという態度で、紫遥はようやくドアを開ける決心がついた。

 「すみません、お待たせしちゃいましたよね。何も聞いていなかったので、驚いてしまって……」

 謝罪の言葉を口にしながら紫遥がドアから顔を出すと、目の前には黒のスーツを着た50代くらいの男性が立っていた。
 白髪混じりのグレーヘアをきっちりとまとめており、運転手というよりは、銀座の老舗バーテンダーのような重厚な雰囲気だ。

 「いえ、お気になさらず。では、早速ですがお二人をそれぞれ順番に送らせていただきますので、ご準備ができましたら、こちらの車にご乗車ください」

 中村が指をピシッと揃えた手で指した先にあったのは、黒いピカピカのリムジン車だった。
 紫遥と真夏は顔を見合わせた。

「あれって、総理大臣とかが乗るやつだよね」

「総理大臣じゃなくて、皇室の人が乗るやつじゃない?」

「もしかして湊さん、用意する車間違えたんじゃないの?」

「そうかもしれない。どうする。連絡してみようか」

 そう小声で真夏と言い合うが、中村の耳にはハッキリと聞こえていたようで、紫遥たちに優しく微笑んだ。
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