意地悪で不愛想で気まぐれだけど大好きなあなたに、おとぎ話が終わっても解けない魔法を
過去を話し終えたノクターンは、請うような眼差しでリーゼを見つめる。
「国王陛下と王妃殿下は素晴らしいお方だ。だからお二人の子であることを嘆かないでほしい」
ノクターンは戸惑うリーゼを見て、彼女の気持ちに気づいていたのだ。
嫌われ者の王族の末裔として生まれたことへの戸惑いと悲しみに。
「そうです。スタイナー大佐が仰る通り、国王陛下と王妃殿下は素晴らしいお方でした」
国民議会議長はそう言うと、上着のポケットから手紙の束を取り出してリーゼに渡した。
これらは全て、王政時代に孤児院にいた子どもたちが、国王と王妃に宛てて書いた手紙だという。
国民議会議長が国王と王妃に届けようと預かっていた矢先、暴動が起きて二人が亡くなったため、渡せずにいるのだ。
「あのお方たちは政務や魔法減少の解明に奔走する合間に、教会や孤児院に寄付をしたり、孤児院の子どもたちのもとに訪れて本を読み聞かせたりしていたのです」
当時のことを思い出しているのか、国民議会議長は懐かしむような表情を浮かべる。
「その姿を息子のジーンも見ていました。彼はよく王妃殿下と一緒に孤児たちの世話をしていたので、王妃殿下への思い入れが強いのです。実は、初恋の相手だったんですよ」
「父さん! そこまで言わなくていいから!」
いつもは冷静沈着なジーンが、珍しく頬を赤く染めて慌てている。
そして、ニヤニヤと笑みを浮かべる父親を牽制するように咳払いした。
「父が話したことはさておき、私は手伝いをしている時に、王妃殿下の体に別の魔力が宿っているのを見たのです。だから御子の――エルネス様の存在を知っていました」
「魔力を見たって……どういうことですか?」
「私は人が持っている魔力を見ることができるのです。いわゆる、女神様からの祝福というものですね」
見えるとはいえ、魔法が失われつつあるストレーシス王国で魔力を持っている人を見かけることはなかった。
だからジーンは自分がもらい受けた祝福を知らなかったのだ。
――王妃に出会うまでは。
「初めて王妃殿下に出会った時は感動しました。王妃殿下は銀色の魔力のベールを纏っていて、精霊のように神秘的で美しかったのですよ」
その時に初めて、ジーンは自分がもらい受けた祝福を知った。
「エルネス様は金色の魔力ですよ。太陽を彷彿とさせるような、温かな色で素敵です」
「ノクターンは?」
「宵闇のような黒です。とてつもない強さを感じます」
リーゼは手を持ち上げ、掌をじっと見つめる。
自分の目には見えないけれど、母親から受け継がれた魔力をジーンが見てくれたことによって、母親との繋がりを感じたのだった。
「ネザーフィールド社にエルネス様が来た時に、エルネス様の魔力が王妃殿下の体内にあった魔力と一緒だということに気づいた私は、喜びを堪えるので必死でした。私はあの暴動で、エルネス様も身罷られたものとばかり思っていましたから」
リーゼがネザーフィールド社を初めて訪ねたあの日、ジーンは定時になると飛んで家に帰り、父親である国民議会議長にリーゼのことを話したそうだ。
「私と父は喜びを抑えきれずに総帥を呼び出して伝えたのですが、総帥は既にエルネス様がご存命であることを知っていたのです」
「いやはや、あの時は裏切られたと思ったよ。国王陛下と王妃殿下の願いを叶えるための同志だと思っていたのに、エルネス様のことを隠していたのですから」
そう言い、国民議会議長が恨めし気に総帥を一瞥するのだった。
総帥は居心地悪そうに身じろぎする。
「秘密は知る者が多くなるほど守りが弱くなるものだから、しかたがなかったのだよ」
もしルウェリン中将にリーゼの存在を気づかれてしまったら。
もし国王と王妃を恨む国民にリーゼの存在を知られてしまったら。
託された命を危険に晒してしまうのだから。
「エルネス様、あなたはこれからどうしたいですか?」
総帥は胸に手を当て、リーゼに問いかける。
「全てを知ったいま、色々と思うところがあるでしょう。それを聞かせていただきたいのです」
「わ、私は……――」
正直に言うと、なにもかもが唐突で、未だに自分が王族の末裔である実感を持てずに困惑している。
それでもリーゼの銀色の髪と体の中を流れる魔力が、彼女を王女だと証明しているのだ。
「あなたが王座を求めるのなら尽力します。再びこの国を王国に戻しましょう」
「でも……それは、こくお――お父様やお母様が望んでいることではありませんよね?」
しかしノクターンと総帥と国民議会議長は、リーゼが望むなら王制を復活させられると主張する。
彼らはリーゼを通して、失ったなにかを埋め合わせようとしている。
大切な国王と王妃を失ったやるせなさを、拭い去りたいということもあるだろう。
そのことに気づいたリーゼは、ゆるやかに首を横に振った。
「私は誰がなんと言おうと、国王にはなりません。私が国王になると、いまこの国にいる人たちが持っている自由と権利を奪うことになってしまいますから」
それは、恨まれてもなお国民を想い続けた優しい国王と王妃が、自分の身を削りながらも国民のために用意してくれた最後の贈り物なのだ。
そんな彼らの想いを踏みにじって王位を取り戻そうとしたら、彼らの努力が報われない。
産みの親への親不孝となってしまう。
「両親がこの国の人々を想って贈った自由と権利を、奪うことなんてできません」
ノクターンと総帥と国民議会議長が背負っているものも理解できる。
彼らの苦痛を取り除けない選択だとわかっていても、それを申し訳なく思っていても、リーゼはこの選択を譲れない。
――やるべきことはもうわかっている。
リーゼが王女としてこの国にできる、最善の選択はもう決まっているのだ。
「私はまだ、曲がりなりにも王女ですから、国民を想ってこの決断を下します」
リーゼはすっと背筋を伸ばし、凛とした佇まいで宣言する。
その姿に王妃の面影を重ねたノクターンたちは、息を呑んで見守った。
「王族の身分と名前を放棄し、これからもリーゼ・ヘインズとして生きていきます」
おとぎ話が終わり、不安と自由と夢が混沌としているこの国で。
新しい時代を作る一人として生きていきたい。
だけどその前に、なさなければならないことがある。
「あの、王女として一つだけ命令をしてもいいでしょうか?」
「なんなりと。エルネス様からご命令いただけるなんて、この上なく光栄に思います」
総帥は厳かに頷いた。
「この国の人々の、恒久的な自由と安全を守りなさい。おとぎ話が終わったこの国でも、誰もが幸せになれる権利を得られるように」
「エルネス様の御心のままに」
これでもう十分だ。
私はやるべきことをやった。
リーゼは振り返り、ノクターンを見る。
「それでは、私は王族としての身分を放棄し、これまでの生活に戻ります」
彼が守り続けてくれた『お姫様』に、別れを告げた。
「エルネス殿下が正式に継承権を放棄なされた。これをもってストレーシス国は、国民により選出された国民の代表が国を治める連邦共和国となる」
総帥が宣言し、一つの時代が終わった。
明日から新しい政治体制に移行する準備で忙しくなるだろう。
総帥と国民議会議長が二人でそう話していると、
「――待て。やらなければならないことがまだ残っている」
ノクターンが張りつめた声で二人の会話を遮った。
その場にいる全員が見守る中、ノクターンが呪文を唱えると、彼の足元が金色に光る。
光はあっという間に複雑な幾何学の文様を描いた。
同時に、リーゼ以外全員の胸元に、同様の文様が現れる。
「たったいま、リーゼの正体を知る者全員に隷属魔法を行使した。リーゼの正体は他言無用。話せばお前たちは血を吐き、聞いた者も死ぬことを覚えておけ」
「ノクターン! いくらなんでも、そんなことをしたらダメだよ!」
「いいや、こうでもしないとリーゼの安全を守れない」
青ざめたリーゼが止めるものの、ノクターンは頑なに魔法を解こうとしない。
「やれやれ、やっぱり<冷血のスタイナー大佐>だな。いまの脅しのせいで寿命が三年は縮んだぞ」
エディがそう言うと、倉庫の中にいた面々は声を上げて笑ったのだった。
みんな、恐ろしい魔法をかけられているのにもかかわらず、和やかな空気になってしまったのだ。
ある意味エディも魔法使いなのかもしれないと、リーゼは密かに思ったのだった。
「リーゼ、髪の色を変えるぞ」
「うん」
ノクターンはリーゼの髪に触れ、呪文を唱えながら優しく梳き流す。
彼の指先が触れる度に胸の奥がぎゅっと軋む。
「ねえ、私はもうお姫様じゃなくなったけど……一緒にいてくれる?」
振り返ってノクターンを見上げる。
魔法を使っているからなのか、彼の緑色の瞳が仄かに光っている。
その目が柔らかに眇められた。
「当り前だ」
ぶっきらぼうで短い返事。
しかしリーゼにとってはなによりも嬉しい言葉で。
「大好き!」
飛びつくようにノクターンを抱きしめ、頬擦りをした。
そんな二人の様子を、離れた場所から総帥と国民議会議長が眺めていた。
「陛下……これでようやく、詰みですね。あなたの大切な白の王の駒を守り抜きましたよ」
「長い戦いでしたね」
地獄のような日々を耐え抜いてきた中、総帥にとって、生き残っている王女の存在だけが慰めだった。
彼は抱きしめ合うリーゼとノクターンを見て微笑むと、踵を返して倉庫から出て行った。
新月の夜が、明ける――。
「国王陛下と王妃殿下は素晴らしいお方だ。だからお二人の子であることを嘆かないでほしい」
ノクターンは戸惑うリーゼを見て、彼女の気持ちに気づいていたのだ。
嫌われ者の王族の末裔として生まれたことへの戸惑いと悲しみに。
「そうです。スタイナー大佐が仰る通り、国王陛下と王妃殿下は素晴らしいお方でした」
国民議会議長はそう言うと、上着のポケットから手紙の束を取り出してリーゼに渡した。
これらは全て、王政時代に孤児院にいた子どもたちが、国王と王妃に宛てて書いた手紙だという。
国民議会議長が国王と王妃に届けようと預かっていた矢先、暴動が起きて二人が亡くなったため、渡せずにいるのだ。
「あのお方たちは政務や魔法減少の解明に奔走する合間に、教会や孤児院に寄付をしたり、孤児院の子どもたちのもとに訪れて本を読み聞かせたりしていたのです」
当時のことを思い出しているのか、国民議会議長は懐かしむような表情を浮かべる。
「その姿を息子のジーンも見ていました。彼はよく王妃殿下と一緒に孤児たちの世話をしていたので、王妃殿下への思い入れが強いのです。実は、初恋の相手だったんですよ」
「父さん! そこまで言わなくていいから!」
いつもは冷静沈着なジーンが、珍しく頬を赤く染めて慌てている。
そして、ニヤニヤと笑みを浮かべる父親を牽制するように咳払いした。
「父が話したことはさておき、私は手伝いをしている時に、王妃殿下の体に別の魔力が宿っているのを見たのです。だから御子の――エルネス様の存在を知っていました」
「魔力を見たって……どういうことですか?」
「私は人が持っている魔力を見ることができるのです。いわゆる、女神様からの祝福というものですね」
見えるとはいえ、魔法が失われつつあるストレーシス王国で魔力を持っている人を見かけることはなかった。
だからジーンは自分がもらい受けた祝福を知らなかったのだ。
――王妃に出会うまでは。
「初めて王妃殿下に出会った時は感動しました。王妃殿下は銀色の魔力のベールを纏っていて、精霊のように神秘的で美しかったのですよ」
その時に初めて、ジーンは自分がもらい受けた祝福を知った。
「エルネス様は金色の魔力ですよ。太陽を彷彿とさせるような、温かな色で素敵です」
「ノクターンは?」
「宵闇のような黒です。とてつもない強さを感じます」
リーゼは手を持ち上げ、掌をじっと見つめる。
自分の目には見えないけれど、母親から受け継がれた魔力をジーンが見てくれたことによって、母親との繋がりを感じたのだった。
「ネザーフィールド社にエルネス様が来た時に、エルネス様の魔力が王妃殿下の体内にあった魔力と一緒だということに気づいた私は、喜びを堪えるので必死でした。私はあの暴動で、エルネス様も身罷られたものとばかり思っていましたから」
リーゼがネザーフィールド社を初めて訪ねたあの日、ジーンは定時になると飛んで家に帰り、父親である国民議会議長にリーゼのことを話したそうだ。
「私と父は喜びを抑えきれずに総帥を呼び出して伝えたのですが、総帥は既にエルネス様がご存命であることを知っていたのです」
「いやはや、あの時は裏切られたと思ったよ。国王陛下と王妃殿下の願いを叶えるための同志だと思っていたのに、エルネス様のことを隠していたのですから」
そう言い、国民議会議長が恨めし気に総帥を一瞥するのだった。
総帥は居心地悪そうに身じろぎする。
「秘密は知る者が多くなるほど守りが弱くなるものだから、しかたがなかったのだよ」
もしルウェリン中将にリーゼの存在を気づかれてしまったら。
もし国王と王妃を恨む国民にリーゼの存在を知られてしまったら。
託された命を危険に晒してしまうのだから。
「エルネス様、あなたはこれからどうしたいですか?」
総帥は胸に手を当て、リーゼに問いかける。
「全てを知ったいま、色々と思うところがあるでしょう。それを聞かせていただきたいのです」
「わ、私は……――」
正直に言うと、なにもかもが唐突で、未だに自分が王族の末裔である実感を持てずに困惑している。
それでもリーゼの銀色の髪と体の中を流れる魔力が、彼女を王女だと証明しているのだ。
「あなたが王座を求めるのなら尽力します。再びこの国を王国に戻しましょう」
「でも……それは、こくお――お父様やお母様が望んでいることではありませんよね?」
しかしノクターンと総帥と国民議会議長は、リーゼが望むなら王制を復活させられると主張する。
彼らはリーゼを通して、失ったなにかを埋め合わせようとしている。
大切な国王と王妃を失ったやるせなさを、拭い去りたいということもあるだろう。
そのことに気づいたリーゼは、ゆるやかに首を横に振った。
「私は誰がなんと言おうと、国王にはなりません。私が国王になると、いまこの国にいる人たちが持っている自由と権利を奪うことになってしまいますから」
それは、恨まれてもなお国民を想い続けた優しい国王と王妃が、自分の身を削りながらも国民のために用意してくれた最後の贈り物なのだ。
そんな彼らの想いを踏みにじって王位を取り戻そうとしたら、彼らの努力が報われない。
産みの親への親不孝となってしまう。
「両親がこの国の人々を想って贈った自由と権利を、奪うことなんてできません」
ノクターンと総帥と国民議会議長が背負っているものも理解できる。
彼らの苦痛を取り除けない選択だとわかっていても、それを申し訳なく思っていても、リーゼはこの選択を譲れない。
――やるべきことはもうわかっている。
リーゼが王女としてこの国にできる、最善の選択はもう決まっているのだ。
「私はまだ、曲がりなりにも王女ですから、国民を想ってこの決断を下します」
リーゼはすっと背筋を伸ばし、凛とした佇まいで宣言する。
その姿に王妃の面影を重ねたノクターンたちは、息を呑んで見守った。
「王族の身分と名前を放棄し、これからもリーゼ・ヘインズとして生きていきます」
おとぎ話が終わり、不安と自由と夢が混沌としているこの国で。
新しい時代を作る一人として生きていきたい。
だけどその前に、なさなければならないことがある。
「あの、王女として一つだけ命令をしてもいいでしょうか?」
「なんなりと。エルネス様からご命令いただけるなんて、この上なく光栄に思います」
総帥は厳かに頷いた。
「この国の人々の、恒久的な自由と安全を守りなさい。おとぎ話が終わったこの国でも、誰もが幸せになれる権利を得られるように」
「エルネス様の御心のままに」
これでもう十分だ。
私はやるべきことをやった。
リーゼは振り返り、ノクターンを見る。
「それでは、私は王族としての身分を放棄し、これまでの生活に戻ります」
彼が守り続けてくれた『お姫様』に、別れを告げた。
「エルネス殿下が正式に継承権を放棄なされた。これをもってストレーシス国は、国民により選出された国民の代表が国を治める連邦共和国となる」
総帥が宣言し、一つの時代が終わった。
明日から新しい政治体制に移行する準備で忙しくなるだろう。
総帥と国民議会議長が二人でそう話していると、
「――待て。やらなければならないことがまだ残っている」
ノクターンが張りつめた声で二人の会話を遮った。
その場にいる全員が見守る中、ノクターンが呪文を唱えると、彼の足元が金色に光る。
光はあっという間に複雑な幾何学の文様を描いた。
同時に、リーゼ以外全員の胸元に、同様の文様が現れる。
「たったいま、リーゼの正体を知る者全員に隷属魔法を行使した。リーゼの正体は他言無用。話せばお前たちは血を吐き、聞いた者も死ぬことを覚えておけ」
「ノクターン! いくらなんでも、そんなことをしたらダメだよ!」
「いいや、こうでもしないとリーゼの安全を守れない」
青ざめたリーゼが止めるものの、ノクターンは頑なに魔法を解こうとしない。
「やれやれ、やっぱり<冷血のスタイナー大佐>だな。いまの脅しのせいで寿命が三年は縮んだぞ」
エディがそう言うと、倉庫の中にいた面々は声を上げて笑ったのだった。
みんな、恐ろしい魔法をかけられているのにもかかわらず、和やかな空気になってしまったのだ。
ある意味エディも魔法使いなのかもしれないと、リーゼは密かに思ったのだった。
「リーゼ、髪の色を変えるぞ」
「うん」
ノクターンはリーゼの髪に触れ、呪文を唱えながら優しく梳き流す。
彼の指先が触れる度に胸の奥がぎゅっと軋む。
「ねえ、私はもうお姫様じゃなくなったけど……一緒にいてくれる?」
振り返ってノクターンを見上げる。
魔法を使っているからなのか、彼の緑色の瞳が仄かに光っている。
その目が柔らかに眇められた。
「当り前だ」
ぶっきらぼうで短い返事。
しかしリーゼにとってはなによりも嬉しい言葉で。
「大好き!」
飛びつくようにノクターンを抱きしめ、頬擦りをした。
そんな二人の様子を、離れた場所から総帥と国民議会議長が眺めていた。
「陛下……これでようやく、詰みですね。あなたの大切な白の王の駒を守り抜きましたよ」
「長い戦いでしたね」
地獄のような日々を耐え抜いてきた中、総帥にとって、生き残っている王女の存在だけが慰めだった。
彼は抱きしめ合うリーゼとノクターンを見て微笑むと、踵を返して倉庫から出て行った。
新月の夜が、明ける――。