Drop's
引っ越し
『お母さーん!荷物ここに置いとくよー!』
3月の寒空の下、1台の大きなトラックが家の前に止まった。
『僕のカメラ無いんだけど!!!お姉ちゃん知らない?!』
『あっ...多分...私のダンボールに入ってる...かも...?』
『もー!!!だからお姉ちゃんに貸したくないんだよー!!!』
この町に引っ越してきたのは、
姉弟とその両親。
元気で活発な姉は紋(あや)
次の春から高校1年生になる。
少し控えめな性格の弟は蜜(みつ)
受験を控えた中学3年生になる。
『もー!紋!!
いっつも蜜を困らせて!
これからは生活が変わるんだから、しっかりしてくれないと困るのよ!!!』
『ハハハハハ!いいじゃないか!
暗いパン屋より、明るいパン屋の方が活気が出て、お客さんもつきやすいよ。』
家族は、両親の長年の夢だったパン屋を開く為、都会の暮らしを捨て、母(智子)の地元に越してきたのだ。
『んーーーーっ
お父さんだけがいつも私の味方ねっ』
『もう!お父さん!!!』
『ははは...』
『お父さん、またお母さんに怒られてるよ!』
『ほんとね!!私の味方をしたばっかりに...』
『ははは...』
『お父さん...笑顔が歪んでるよ...』
蜜は祐介の肩をポンッと叩いて、自室の掃除に向かった。
『さぁ〜てっ、私も掃除しよー!』
紋も空気を察して自室へ向かう。
祐介が顔を上げると、頬を膨らませて怒っている智子の姿があった。
『智子...ごめんなぁ』
『いい加減、あの子たちもしっかりしてもらわないと...』
祐介は智子の頭を優しく撫でて、智子の機嫌を治した。
そうして、賑やかな家族は
お昼過ぎまで片付け作業に追われた。