社交界の毒婦とよばれる私~素敵な辺境伯令息に腕を折られたので、責任とってもらいます~【書籍化+コミカライズ連載中】
26 頼もしい味方
私はリオ様への思いに気がついたものの、どうしたらいいのかわからず困っていた。
今まで男性を好きになったことがなかったので、この恋の終わらせ方もわからない。
他の人はこういうとき、どうするのかしら?
そういえば、母がまだ生きていて私が普通の貴族令嬢として暮らしていたころ、仲が良かった友人たちは恋の話を楽しんでいた。
だれが素敵だとか、こんな恋をしてみたいとか。
そうだわ、恋の悩みは友人に相談したらいいのよ!
私はたった一人の家族であり、大切な友人でもあるコニーを思い浮かべた。
でも、バルゴアの騎士を目指しているコニーにとって、リオ様はお仕えする人。そんなリオ様を私が好きになってしまったと相談したら……。
『セレナお嬢様はリオ様のことが好きなんですか!? でもリオ様に避けられているって!? ……あの男、ぶっ飛ばす』
私の頭の中のコニーがリオ様をぶっ飛ばしに行って、エディ様に捕えられている。
「あ、ああ、ダメだわ」
コニーに心配をかけて、その輝かしい未来を邪魔するわけにはいかない。
私がため息をつくと、メイドが「セレナお嬢様、お茶はいかがですか?」と聞いてくれた。
「いただくわ、ありがとう」
ニコッと嬉しそうに微笑むメイドは、よく考えたら、私と同じくらいの年齢で。
私はあわててメイドを呼び止めた。
「あの、少し話を聞いてほしいの。よければ、他のメイドたちも呼んでくれる? みんなでお茶にしましょう」
「え? あ、はい」
戸惑いながらもメイドはうなずいてくれた。しばらくすると、私のお世話をしてくれているメイドが四人部屋を訪れる。
「セレナお嬢様、今は私達しか手が空いておらず……」
ターチェ伯爵夫人は、私にたくさんのメイドをつけてくれている。夫人に「そんなに若いメイド達だけで大丈夫?」と心配されたけど、彼女達はみんな誠実で優秀だった。
そんな彼女達だって、だれかに恋をしているかもしれない。
私はメイド達にお茶の席に座るように勧めた。
座ることをためらっていた彼女達に「お願い」と伝えると、あわてて席に座ってくれる。メイド達は、不安そうに私を見ていた。
「お仕事中にごめんね。実は悩みがあって、そのことをあなた達に相談したくて……」
改めて言うのは、すごく恥ずかしい。でも、恥ずかしがっている場合ではない。
私のケガはおそらくもう治っている。ファルトン伯爵家でいろいろあったときに少しだけ痛んだけど、それ以降は痛くない。今度、医師に診てもらったら、たぶんこの包帯は取れてしまう。
私には、もう時間がない。
「実は……」
メイド達は深刻な表情でゴクリとつばを飲み込んだ。
「私……」
顔が熱い。
「恐れ多くも、リ、リオ様のことが好きになってしまって……」
私がメイド達をチラッと見ると、彼女たちはポカンと口を開けていた。
「え?」
「はい?」
戸惑うような小さな声が聞こえてくる。
「でも、リオ様には他に好きな女性がいるのでしょう?」
「えええっ!?」
「そ、そうなのですか!?」
今度の声はすごく大きかった。メイドの一人は、こちらに身を乗り出している。
「だれも知らなかったの?」
「そんな話は聞いておりません! だって、ねぇ?」
メイド達はお互いに視線を送り合っている。
「その、私達、リオ様はセレナお嬢様のことが好きなのかと思っていました」
「奥様に禁止されるまでは、熱心にこちらに通って、かいがいしくお嬢様のお世話をされていましたし……」
「セレナお嬢様、以前、お姫様抱っこされていましたよね?」
言われてみれば、リオ様の行動は私を好きだとしか思えないものばかりだった。
「大変失礼ですが、セレナお嬢様の勘違いでは?」
そうだったら良かったのに。
「でも私、リオ様に避けられているの。あなた達もリオ様がここに来るのを、最近見ていないでしょう?」
「そういえば……」
気まずい空気が漂っている。
その中一人のメイドが立ち上がった。
「お嬢様、この件は、とても重要なことだと思います。経験の浅い私達では判断がつきません。ですから、頼りになる方を呼んでまいります!」
そう言って走り去ったメイドは、メイド長を連れて戻ってきた。年配のメイド長は、初めて出会ったときからずっと私に礼儀正しく接してくれている。
これまで私達が話していた内容をメイド長に伝えると、彼女は「わかりました」とうなずいた。
「まず、結論からお伝えすると、セレナお嬢様が思っているようなリオ様の想い人はおりません」
「でも……」
ためらう私にメイド長は、優しく微笑む。
「使用人の目は邸宅内のどこにでもあります。リオ様が他の女性を思っていたら、必ず使用人のだれかが気がつき、私の耳に入っていることでしょう」
「じゃあ、リオ様に想い人はいないの?」
その質問にメイド長はうなずかなかった。
「リオ様が、指輪を準備していることは確かです」
「やっぱり、だれかにあげるためよね? これから出会う女性のために前もって準備している、とか?」
メイド長は、なんて言っていいのか悩んでいるようだった。
「……私のほうからは、はっきりと言えません。でも、セレナお嬢様がリオ様のことを想ってらっしゃるのなら、その指輪をだれにあげるのか直接聞いてみてはいかがでしょうか?」
「私が? リオ様に?」
そんなこと考えたこともなかった。どうやってリオ様への気持ちをあきらめたらいいの? と、ばかり悩んでいた。
「でも、私、リオ様に避けられていて、会うこともできないの」
「その話は私の耳にも入っております」
メイド長は、あきれたようにため息をついた。
「旦那様にも、ご報告しましたが……」
それを聞いたターチェ伯爵は、『リオくんの好きにさせるように』と言ったらしい。
「それ以外のご指示はありませんでした。ですから、私達も好きにさせていただきましょう」
メイド長は、メイド達を振り返った。
「あなた達、セレナお嬢様のために働く気はありますか?」
「あります!」
「だったら、みんなでリオ様の居場所を探りなさい。そして、逐一(ちくいち)私に報告するのです」
「はい!」と、若いメイド達は、元気なお返事をする。
一人、状況を理解していない私は、メイド長に尋ねた。
「何をする気なの?」
「私達で、リオ様を逃げられない場所に誘導します。セレナお嬢様は、そこでリオ様としっかりお話になってください」
「そんなことができるの?」
メイド長は、ニコリと微笑む。
「たしかにリオ様は、とても優秀な方です。身体能力も高く逃げられたら追いつけないでしょう。しかし、リオ様は、私達ほどこの邸宅内を熟知しておりません」
「そうなのね。でも、どうして私にそんなに良くしてくれるの? 私は、あなた達に何もしてあげられないのに……」
それが不思議で仕方がない。
「それはもちろん、ここにいる者達がセレナお嬢様のことをお慕いしているからです。セレナお嬢様のお人柄にふれたら、みんな好きになってしまいます。お嬢様は、それくらい魅力的な方なのです」
メイド長の後ろで、メイド達がコクコクと一生懸命うなずいてくれている。
他人からの予想外の好意に戸惑っている私に、メイド長は「セレナお嬢様は、これからは愛されることに慣れていかないといけませんね」と言ってくれた。
今まで男性を好きになったことがなかったので、この恋の終わらせ方もわからない。
他の人はこういうとき、どうするのかしら?
そういえば、母がまだ生きていて私が普通の貴族令嬢として暮らしていたころ、仲が良かった友人たちは恋の話を楽しんでいた。
だれが素敵だとか、こんな恋をしてみたいとか。
そうだわ、恋の悩みは友人に相談したらいいのよ!
私はたった一人の家族であり、大切な友人でもあるコニーを思い浮かべた。
でも、バルゴアの騎士を目指しているコニーにとって、リオ様はお仕えする人。そんなリオ様を私が好きになってしまったと相談したら……。
『セレナお嬢様はリオ様のことが好きなんですか!? でもリオ様に避けられているって!? ……あの男、ぶっ飛ばす』
私の頭の中のコニーがリオ様をぶっ飛ばしに行って、エディ様に捕えられている。
「あ、ああ、ダメだわ」
コニーに心配をかけて、その輝かしい未来を邪魔するわけにはいかない。
私がため息をつくと、メイドが「セレナお嬢様、お茶はいかがですか?」と聞いてくれた。
「いただくわ、ありがとう」
ニコッと嬉しそうに微笑むメイドは、よく考えたら、私と同じくらいの年齢で。
私はあわててメイドを呼び止めた。
「あの、少し話を聞いてほしいの。よければ、他のメイドたちも呼んでくれる? みんなでお茶にしましょう」
「え? あ、はい」
戸惑いながらもメイドはうなずいてくれた。しばらくすると、私のお世話をしてくれているメイドが四人部屋を訪れる。
「セレナお嬢様、今は私達しか手が空いておらず……」
ターチェ伯爵夫人は、私にたくさんのメイドをつけてくれている。夫人に「そんなに若いメイド達だけで大丈夫?」と心配されたけど、彼女達はみんな誠実で優秀だった。
そんな彼女達だって、だれかに恋をしているかもしれない。
私はメイド達にお茶の席に座るように勧めた。
座ることをためらっていた彼女達に「お願い」と伝えると、あわてて席に座ってくれる。メイド達は、不安そうに私を見ていた。
「お仕事中にごめんね。実は悩みがあって、そのことをあなた達に相談したくて……」
改めて言うのは、すごく恥ずかしい。でも、恥ずかしがっている場合ではない。
私のケガはおそらくもう治っている。ファルトン伯爵家でいろいろあったときに少しだけ痛んだけど、それ以降は痛くない。今度、医師に診てもらったら、たぶんこの包帯は取れてしまう。
私には、もう時間がない。
「実は……」
メイド達は深刻な表情でゴクリとつばを飲み込んだ。
「私……」
顔が熱い。
「恐れ多くも、リ、リオ様のことが好きになってしまって……」
私がメイド達をチラッと見ると、彼女たちはポカンと口を開けていた。
「え?」
「はい?」
戸惑うような小さな声が聞こえてくる。
「でも、リオ様には他に好きな女性がいるのでしょう?」
「えええっ!?」
「そ、そうなのですか!?」
今度の声はすごく大きかった。メイドの一人は、こちらに身を乗り出している。
「だれも知らなかったの?」
「そんな話は聞いておりません! だって、ねぇ?」
メイド達はお互いに視線を送り合っている。
「その、私達、リオ様はセレナお嬢様のことが好きなのかと思っていました」
「奥様に禁止されるまでは、熱心にこちらに通って、かいがいしくお嬢様のお世話をされていましたし……」
「セレナお嬢様、以前、お姫様抱っこされていましたよね?」
言われてみれば、リオ様の行動は私を好きだとしか思えないものばかりだった。
「大変失礼ですが、セレナお嬢様の勘違いでは?」
そうだったら良かったのに。
「でも私、リオ様に避けられているの。あなた達もリオ様がここに来るのを、最近見ていないでしょう?」
「そういえば……」
気まずい空気が漂っている。
その中一人のメイドが立ち上がった。
「お嬢様、この件は、とても重要なことだと思います。経験の浅い私達では判断がつきません。ですから、頼りになる方を呼んでまいります!」
そう言って走り去ったメイドは、メイド長を連れて戻ってきた。年配のメイド長は、初めて出会ったときからずっと私に礼儀正しく接してくれている。
これまで私達が話していた内容をメイド長に伝えると、彼女は「わかりました」とうなずいた。
「まず、結論からお伝えすると、セレナお嬢様が思っているようなリオ様の想い人はおりません」
「でも……」
ためらう私にメイド長は、優しく微笑む。
「使用人の目は邸宅内のどこにでもあります。リオ様が他の女性を思っていたら、必ず使用人のだれかが気がつき、私の耳に入っていることでしょう」
「じゃあ、リオ様に想い人はいないの?」
その質問にメイド長はうなずかなかった。
「リオ様が、指輪を準備していることは確かです」
「やっぱり、だれかにあげるためよね? これから出会う女性のために前もって準備している、とか?」
メイド長は、なんて言っていいのか悩んでいるようだった。
「……私のほうからは、はっきりと言えません。でも、セレナお嬢様がリオ様のことを想ってらっしゃるのなら、その指輪をだれにあげるのか直接聞いてみてはいかがでしょうか?」
「私が? リオ様に?」
そんなこと考えたこともなかった。どうやってリオ様への気持ちをあきらめたらいいの? と、ばかり悩んでいた。
「でも、私、リオ様に避けられていて、会うこともできないの」
「その話は私の耳にも入っております」
メイド長は、あきれたようにため息をついた。
「旦那様にも、ご報告しましたが……」
それを聞いたターチェ伯爵は、『リオくんの好きにさせるように』と言ったらしい。
「それ以外のご指示はありませんでした。ですから、私達も好きにさせていただきましょう」
メイド長は、メイド達を振り返った。
「あなた達、セレナお嬢様のために働く気はありますか?」
「あります!」
「だったら、みんなでリオ様の居場所を探りなさい。そして、逐一(ちくいち)私に報告するのです」
「はい!」と、若いメイド達は、元気なお返事をする。
一人、状況を理解していない私は、メイド長に尋ねた。
「何をする気なの?」
「私達で、リオ様を逃げられない場所に誘導します。セレナお嬢様は、そこでリオ様としっかりお話になってください」
「そんなことができるの?」
メイド長は、ニコリと微笑む。
「たしかにリオ様は、とても優秀な方です。身体能力も高く逃げられたら追いつけないでしょう。しかし、リオ様は、私達ほどこの邸宅内を熟知しておりません」
「そうなのね。でも、どうして私にそんなに良くしてくれるの? 私は、あなた達に何もしてあげられないのに……」
それが不思議で仕方がない。
「それはもちろん、ここにいる者達がセレナお嬢様のことをお慕いしているからです。セレナお嬢様のお人柄にふれたら、みんな好きになってしまいます。お嬢様は、それくらい魅力的な方なのです」
メイド長の後ろで、メイド達がコクコクと一生懸命うなずいてくれている。
他人からの予想外の好意に戸惑っている私に、メイド長は「セレナお嬢様は、これからは愛されることに慣れていかないといけませんね」と言ってくれた。