社交界の毒婦とよばれる私~素敵な辺境伯令息に腕を折られたので、責任とってもらいます~【書籍化+コミカライズ連載中】
【第二部】04 私の気分を害した罪【聖女ライラ視点】
人気(ひとけ)のないところに私を呼び出し、手の甲に恭(うやうや)しくキスをするこの男は、この国の第二王子ディーク。
「ああっ、ライラ! 僕があなたの心を手に入れることは、もうできないんだね」
そんなことを言いながら悔しそうに顔を歪めている。カルロスとの結婚式は、あと数日に迫っているというのに、まだ私への恋心を諦めきれないのね。
私が聖女に選ばれてからというもの、この国の美しい王子たちが、私を取り合い争っている。
……ふふっ、こういうの! こういうのが見たくて私は聖女になったのよ‼
私は誰よりも美しいのに、パッとしない男爵家に生まれたばかりに、その美しさを今まで有効活用できていなかった。
お爺様とお婆様は、私を溺愛してくれて、可愛くお願いするとなんでも願いを叶えてくれた。でも、両親は礼儀作法に厳しかったし、無駄な勉強もさせられた。
「勉強するのは、ライラの将来のためだよ」と言われたけど、金持ちの男と結婚したら、何の苦労もなく暮らせるのに、どうして私が頑張らないといけないの?
そんな勉強をするくらいなら、もっと美しくなる努力や男に気に入られる言動を学んだほうがずっといいわ。でも、男爵令嬢では結婚できる相手なんてたかが知れている。
だから、私は両親の反対を押し切って聖女になった。
聖女になったとたん、私の世界はガラリと変わった。
神殿で丁重に扱われ、髪も肌も磨かれさらに美しくなった。
最高級のドレスを身にまとい、アクセサリーで神々しさを演出する。そうすると、私を見た誰もがうっとりしてため息をついた。
聖女の仕事は、決められた時間に神殿で少し祈るだけの簡単なものだった。
あとは静かにニコニコしているだけ。それだけで王子たちが熱心に愛をささやいてくれるようになったから、簡単すぎて笑ってしまった。
私の愛を得る為に、カルロスとディークは競い合うように贈り物をしてくれる。私はそれを戸惑っているような振りをしながら受け取るだけ。
もちろん、私のことを悪く言う人もいた。
そういうときは、悲しい顔でカルロスに報告すると、勝手に社交界から消してくれるのよね。
そういうことが続いたせいで、私を攻撃する人はいなくなった。
皆が私の顔色をうかがって、私の機嫌を取ろうとする。
そうそう、これこれ! これぞ、まさしく神に選ばれた気分。
国中の宝石もドレスも、美しいものは、すべて私のもの。
しばらくは二人の王子に取り合われる状況を楽しんでいたけど、カルロスが王太子に選ばれたので、私はカルロスと婚約した。まぁ、当たり前の選択よね。
結婚式を挙げると、私は王太子妃。そして、国王陛下が亡くなりカルロスが王位を継いだら、私が王妃。
そうなれば、この国のすべては私のもので、皆が私の機嫌を取らないといけない。
それって、最高に気分がいい。
私がカルロスを選んでも、ディークは私だけを愛してくれた。アイリーンという女と無理やり婚約させられても、ディークはアイリーンに見向きもせず、私だけを愛してくれている。
婚約者が、別の女性を愛しているってどういう気持ちなの? きっと死にたくなるくらい惨めなんでしょうね。
ディークに嫌われているアイリーンは、他の令嬢たちからも嫌われていた。
皆に愛される私とは正反対の存在。
そんな彼女を見ていると、自分の幸せをより深く実感できる。
私は、私への愛に苦しんでいるディークの頬にそっと触れた。
「ディーク」
「ライラ……僕のために悲しんでくれているんだね」
私の手を優しく握ったディークは、勝手に都合のいい解釈をして、寂しそうな笑みを浮かべる。
「ライラ、前に僕が言ったことを覚えている?」
私は不思議そうに首をかしげた。
「ほら、君が兄様と結婚しても、君のことを愛し続けるって言ったこと」
ああ、その話ね。それでこそ、ディークよ。ずっと手に入らない私に、恋焦がれていればいい。
「あの言葉、取り消すよ」
「……え?」
「ほら、君も前に言ってくれただろう? 僕自身の幸せを考えて、って」
言ったけど……なんだか嫌な予感がする。
「僕、新しい恋を見つけたんだ。女神のように美しい人に、一目惚れしちゃって……」
はぁ?
思わずそんな言葉が出そうになり、私は慌てて自分の口を押さえた。
「その人、僕の友達の婚約者なんだけど、まだ婚約してそれほど時間が経っていないみたいなんだ。だから、まだ僕にもチャンスがあるよね⁉」
兄弟で女を取り合っていたと思ったら、次は友達の婚約者を狙うって……何、このクズ。カルロスのほうを選んで本当に良かったわ。
でも、ディークの心は、私のものだったのに……。なんだかモヤモヤしてしまう。
そのとき、ディークが声を上げた。
「あれ? 君は……リオの婚約者のセレナ嬢!」
ディークは私の耳元で「僕が一目惚れした女神だよ! さっそく会えるなんて運命を感じる!」と言って、嬉しそうに駆けていく。
その場にポツンと取り残された私の気分は最悪だった。
ディークに嫌われているアイリーンの惨めな姿が、今の自分と重なってしまう。
「セレナ……ね」
聖女である私をこんな気分にさせたんだから、それ相応の罰を受けてもらわないと。
私は楽しそうに会話するディークとセレナに背を向けて歩き出した。
「ああっ、ライラ! 僕があなたの心を手に入れることは、もうできないんだね」
そんなことを言いながら悔しそうに顔を歪めている。カルロスとの結婚式は、あと数日に迫っているというのに、まだ私への恋心を諦めきれないのね。
私が聖女に選ばれてからというもの、この国の美しい王子たちが、私を取り合い争っている。
……ふふっ、こういうの! こういうのが見たくて私は聖女になったのよ‼
私は誰よりも美しいのに、パッとしない男爵家に生まれたばかりに、その美しさを今まで有効活用できていなかった。
お爺様とお婆様は、私を溺愛してくれて、可愛くお願いするとなんでも願いを叶えてくれた。でも、両親は礼儀作法に厳しかったし、無駄な勉強もさせられた。
「勉強するのは、ライラの将来のためだよ」と言われたけど、金持ちの男と結婚したら、何の苦労もなく暮らせるのに、どうして私が頑張らないといけないの?
そんな勉強をするくらいなら、もっと美しくなる努力や男に気に入られる言動を学んだほうがずっといいわ。でも、男爵令嬢では結婚できる相手なんてたかが知れている。
だから、私は両親の反対を押し切って聖女になった。
聖女になったとたん、私の世界はガラリと変わった。
神殿で丁重に扱われ、髪も肌も磨かれさらに美しくなった。
最高級のドレスを身にまとい、アクセサリーで神々しさを演出する。そうすると、私を見た誰もがうっとりしてため息をついた。
聖女の仕事は、決められた時間に神殿で少し祈るだけの簡単なものだった。
あとは静かにニコニコしているだけ。それだけで王子たちが熱心に愛をささやいてくれるようになったから、簡単すぎて笑ってしまった。
私の愛を得る為に、カルロスとディークは競い合うように贈り物をしてくれる。私はそれを戸惑っているような振りをしながら受け取るだけ。
もちろん、私のことを悪く言う人もいた。
そういうときは、悲しい顔でカルロスに報告すると、勝手に社交界から消してくれるのよね。
そういうことが続いたせいで、私を攻撃する人はいなくなった。
皆が私の顔色をうかがって、私の機嫌を取ろうとする。
そうそう、これこれ! これぞ、まさしく神に選ばれた気分。
国中の宝石もドレスも、美しいものは、すべて私のもの。
しばらくは二人の王子に取り合われる状況を楽しんでいたけど、カルロスが王太子に選ばれたので、私はカルロスと婚約した。まぁ、当たり前の選択よね。
結婚式を挙げると、私は王太子妃。そして、国王陛下が亡くなりカルロスが王位を継いだら、私が王妃。
そうなれば、この国のすべては私のもので、皆が私の機嫌を取らないといけない。
それって、最高に気分がいい。
私がカルロスを選んでも、ディークは私だけを愛してくれた。アイリーンという女と無理やり婚約させられても、ディークはアイリーンに見向きもせず、私だけを愛してくれている。
婚約者が、別の女性を愛しているってどういう気持ちなの? きっと死にたくなるくらい惨めなんでしょうね。
ディークに嫌われているアイリーンは、他の令嬢たちからも嫌われていた。
皆に愛される私とは正反対の存在。
そんな彼女を見ていると、自分の幸せをより深く実感できる。
私は、私への愛に苦しんでいるディークの頬にそっと触れた。
「ディーク」
「ライラ……僕のために悲しんでくれているんだね」
私の手を優しく握ったディークは、勝手に都合のいい解釈をして、寂しそうな笑みを浮かべる。
「ライラ、前に僕が言ったことを覚えている?」
私は不思議そうに首をかしげた。
「ほら、君が兄様と結婚しても、君のことを愛し続けるって言ったこと」
ああ、その話ね。それでこそ、ディークよ。ずっと手に入らない私に、恋焦がれていればいい。
「あの言葉、取り消すよ」
「……え?」
「ほら、君も前に言ってくれただろう? 僕自身の幸せを考えて、って」
言ったけど……なんだか嫌な予感がする。
「僕、新しい恋を見つけたんだ。女神のように美しい人に、一目惚れしちゃって……」
はぁ?
思わずそんな言葉が出そうになり、私は慌てて自分の口を押さえた。
「その人、僕の友達の婚約者なんだけど、まだ婚約してそれほど時間が経っていないみたいなんだ。だから、まだ僕にもチャンスがあるよね⁉」
兄弟で女を取り合っていたと思ったら、次は友達の婚約者を狙うって……何、このクズ。カルロスのほうを選んで本当に良かったわ。
でも、ディークの心は、私のものだったのに……。なんだかモヤモヤしてしまう。
そのとき、ディークが声を上げた。
「あれ? 君は……リオの婚約者のセレナ嬢!」
ディークは私の耳元で「僕が一目惚れした女神だよ! さっそく会えるなんて運命を感じる!」と言って、嬉しそうに駆けていく。
その場にポツンと取り残された私の気分は最悪だった。
ディークに嫌われているアイリーンの惨めな姿が、今の自分と重なってしまう。
「セレナ……ね」
聖女である私をこんな気分にさせたんだから、それ相応の罰を受けてもらわないと。
私は楽しそうに会話するディークとセレナに背を向けて歩き出した。