社交界の毒婦とよばれる私~素敵な辺境伯令息に腕を折られたので、責任とってもらいます~【書籍化+コミカライズ連載中】
【第二部】13 浅ましい心
しばらく部屋で待っていてもリオ様は戻ってこなかった。
エディ様が先に戻ってきて、私を見るなり「ご無事でしたか」と胸を撫で下ろす。
「何かあったのですか?」と尋ねる私に、エディ様は簡単に現状を説明してくれた。
「ワイン会にディーク殿下が参加していなかったのです。それで、リオがセレナ様を心配して……」
エディ様は、リオ様の指示で一度、部屋に私を探しに来たけど、まだ戻っていなかった。だから、今までリオ様とは別行動でディーク殿下を探していたとのこと。
「リオは、まだここには戻っていないのですね」
そう言いながら、部屋の中を見回すエディ様。
「俺はディーク殿下が庭園から離れた場所で、一人で歩いていたのを見つけたんです。それを報告するために、リオの元に戻ったのですがいなかったので、てっきりセレナ様と合流できて部屋に戻ったのかと」
「リオ様は、どこで私を待っていたのですか?」
「セレナ様が参加されていたお茶会会場の付近です」
「お茶会会場付近……」
なんとなく、少しだけ嫌な予感がした。
「私もリオ様を捜しに行きます。エディ様、リオ様がいた場所まで案内してください」
「はい」
私はアレッタに「あなたは、ここに残ってリオ様を待っていてね」とお願いする。これで入れ違いにリオ様が部屋に戻って来ても大丈夫。
アレッタを残してお茶会が開かれていた会場に向かうと、閉められた庭園の入り口に二人の王宮騎士が立っていた。
エディ様が「こっちです」と庭園入口から少し離れた場所に案内してくれる。
「リオはここでセレナ様が出てくるのを待っていました」
ここからなら庭園の入り口がよく見える。
キョロキョロしていたコニーが「リオ様、いませんね」と呟いた。
そんな私達に、庭園の入り口に立っていた王宮騎士が駆け寄ってくる。
素早くエディ様とコニーが私の前に出た。
王宮騎士はどこか焦った様子で「もしかして、ここにいた人を捜しているんですか?」とエディ様に尋ねている。
「そうだが、何か知っているのか?」
「知っているというか……」
なぜか王宮騎士の目は泳いでいた。
「悲鳴が聞こえたから駆けつけたら、その場にいた男に『医務室はどこだ!』とすごい勢いで聞かれまして。突然のことで驚いてしまったのですが、あとから考えたら、もしかして、急病人がいて運んでくれたのか、と? いや、しかし……」
どうも歯切れが悪い。
エディ様が「その男の特徴は?」と聞いてくれた。
「背が高くて、がっしりした感じの貴族でした。その、何かを……小柄な女性だと思うのですが、抱えていて……。一瞬、聖女様のように見えたのですが、いや、でも、あれはさすがに私の見間違えか……」
まるで独り言のようにブツブツと話す王宮騎士の肩に、エディ様が少し乱暴に手を置いた。ハッと我に返る王宮騎士。
「で、医務室の場所は?」
王宮騎士から医務室の場所を聞き出した私達は医務室に向かった。
その途中でエディ様が「どうも、リオに何かあったようですね」とため息をつく。
「まさかアイツ、セレナ様のときのように、また誰かの腕を折って医務室に運んだんじゃないだろうな……」
エディ様の言葉に、私の心臓がドクンと嫌な音を立てた。
私がお茶会会場でディーク殿下に絡まれている間に、ライラ様はどこかに行ってしまっていた。
会場から出たライラ様がリオ様と出会った可能性はある。
今思い出しても、リオ様と私の出会いは、とてもおかしなものだった。
もし、あのときと同じようなことが起こっていたのなら、優しいリオ様はきっとケガをさせてしまった相手に罪悪感を覚えてしまう。
その相手が、王宮騎士の言っていたように聖女ライラ様だったら……。
真実がどうであれ、リオ様が医務室に誰かを運んだのは間違いない。それはどうやら小柄な女性の可能性が高い。
私を抱きかかえるように、リオ様が別の女性を抱きかかえる姿を想像すると胸が苦しくなってしまう。
今は、それどころじゃないのに……。
誰であろうと、リオ様が他国の女性にケガをさせたとなると大問題になってしまう。それが結婚目前のライラ様だった場合、国同士の問題になることは避けられない。
それでも、私は自分勝手な考えをやめられない。
罪悪感を覚えたリオ様が、相手の女性のお世話を名乗り出たり、食事を食べさせようとしたりしたら、私はどうしたらいいの?
私がケガをしたときにリオ様の善意でしてもらったことを、他の人にはしないでなんて、そんな浅ましいお願いはできない。
医務室に向かう私の心は重く苦しかった。
エディ様が先に戻ってきて、私を見るなり「ご無事でしたか」と胸を撫で下ろす。
「何かあったのですか?」と尋ねる私に、エディ様は簡単に現状を説明してくれた。
「ワイン会にディーク殿下が参加していなかったのです。それで、リオがセレナ様を心配して……」
エディ様は、リオ様の指示で一度、部屋に私を探しに来たけど、まだ戻っていなかった。だから、今までリオ様とは別行動でディーク殿下を探していたとのこと。
「リオは、まだここには戻っていないのですね」
そう言いながら、部屋の中を見回すエディ様。
「俺はディーク殿下が庭園から離れた場所で、一人で歩いていたのを見つけたんです。それを報告するために、リオの元に戻ったのですがいなかったので、てっきりセレナ様と合流できて部屋に戻ったのかと」
「リオ様は、どこで私を待っていたのですか?」
「セレナ様が参加されていたお茶会会場の付近です」
「お茶会会場付近……」
なんとなく、少しだけ嫌な予感がした。
「私もリオ様を捜しに行きます。エディ様、リオ様がいた場所まで案内してください」
「はい」
私はアレッタに「あなたは、ここに残ってリオ様を待っていてね」とお願いする。これで入れ違いにリオ様が部屋に戻って来ても大丈夫。
アレッタを残してお茶会が開かれていた会場に向かうと、閉められた庭園の入り口に二人の王宮騎士が立っていた。
エディ様が「こっちです」と庭園入口から少し離れた場所に案内してくれる。
「リオはここでセレナ様が出てくるのを待っていました」
ここからなら庭園の入り口がよく見える。
キョロキョロしていたコニーが「リオ様、いませんね」と呟いた。
そんな私達に、庭園の入り口に立っていた王宮騎士が駆け寄ってくる。
素早くエディ様とコニーが私の前に出た。
王宮騎士はどこか焦った様子で「もしかして、ここにいた人を捜しているんですか?」とエディ様に尋ねている。
「そうだが、何か知っているのか?」
「知っているというか……」
なぜか王宮騎士の目は泳いでいた。
「悲鳴が聞こえたから駆けつけたら、その場にいた男に『医務室はどこだ!』とすごい勢いで聞かれまして。突然のことで驚いてしまったのですが、あとから考えたら、もしかして、急病人がいて運んでくれたのか、と? いや、しかし……」
どうも歯切れが悪い。
エディ様が「その男の特徴は?」と聞いてくれた。
「背が高くて、がっしりした感じの貴族でした。その、何かを……小柄な女性だと思うのですが、抱えていて……。一瞬、聖女様のように見えたのですが、いや、でも、あれはさすがに私の見間違えか……」
まるで独り言のようにブツブツと話す王宮騎士の肩に、エディ様が少し乱暴に手を置いた。ハッと我に返る王宮騎士。
「で、医務室の場所は?」
王宮騎士から医務室の場所を聞き出した私達は医務室に向かった。
その途中でエディ様が「どうも、リオに何かあったようですね」とため息をつく。
「まさかアイツ、セレナ様のときのように、また誰かの腕を折って医務室に運んだんじゃないだろうな……」
エディ様の言葉に、私の心臓がドクンと嫌な音を立てた。
私がお茶会会場でディーク殿下に絡まれている間に、ライラ様はどこかに行ってしまっていた。
会場から出たライラ様がリオ様と出会った可能性はある。
今思い出しても、リオ様と私の出会いは、とてもおかしなものだった。
もし、あのときと同じようなことが起こっていたのなら、優しいリオ様はきっとケガをさせてしまった相手に罪悪感を覚えてしまう。
その相手が、王宮騎士の言っていたように聖女ライラ様だったら……。
真実がどうであれ、リオ様が医務室に誰かを運んだのは間違いない。それはどうやら小柄な女性の可能性が高い。
私を抱きかかえるように、リオ様が別の女性を抱きかかえる姿を想像すると胸が苦しくなってしまう。
今は、それどころじゃないのに……。
誰であろうと、リオ様が他国の女性にケガをさせたとなると大問題になってしまう。それが結婚目前のライラ様だった場合、国同士の問題になることは避けられない。
それでも、私は自分勝手な考えをやめられない。
罪悪感を覚えたリオ様が、相手の女性のお世話を名乗り出たり、食事を食べさせようとしたりしたら、私はどうしたらいいの?
私がケガをしたときにリオ様の善意でしてもらったことを、他の人にはしないでなんて、そんな浅ましいお願いはできない。
医務室に向かう私の心は重く苦しかった。