社交界の毒婦とよばれる私~素敵な辺境伯令息に腕を折られたので、責任とってもらいます~【書籍化+コミカライズ連載中】
【第二部】15 どうして?【ライラ視点】
私は目の前のカルロスを信じられない気持ちで見つめていた。
「どうして……?」
カルロスは、私の問いには答えず控えていた医師に目配せをする。医師は礼儀正しく頭を下げてから、静かに医務室を出て行った。
他の者も下がらせたようで、医務室には私とカルロスしかいない。
「ライラ」
カルロスは、私の名前を優しく呼びながら、ベッドに座っている私の横に腰をかけた。
「落ち着いて話そう」
「落ち着けって……」
リオに掴まれた腕はまだ痛むし、乱暴に運ばれて私の髪はぐちゃぐちゃになっている。こんな屈辱、今まで味わったことがない。
「こんな状況で、どうして私に、そんなことを言うの?」
今までのカルロスなら、私にひどいことをした貴族達をすぐに処罰してくれた。
だから、今回もリオをすぐに謝罪させて、厳しい罰を与えてくれると思っていたのに。
カルロスは、リオを咎めることすらせず、『ライラにケガがなかったから、この件は気にしなくていい』と言った。
「私が、こんな目に遭わされたのに……。カルロス、あなたはリオを許すというの?」
涙ながらに私が訴えても、カルロスは困ったような笑みを浮かべているだけ。
「私のことを愛しているんでしょう? だったら!」
カルロスは、私の髪を優しく撫でた。
「君のことは、とても可愛いと思っているよ。それに、君やディークは私の恩人だから感謝している」
煮え切らないカルロスの言葉に、私はイライラした。
「だったら、リオをなんとかしてよ! いつものように、早く!」
「ライラ」
さっきとは違い、なぜか冷たさを感じて、私はカルロスを見た。
いつものように穏やかな笑みを浮かべているのに、その瞳は冷ややかだ。
「リオの件に関しては、事前に何度も伝えたはずだ。バルゴア領とは問題を起こしたくない、と」
今まで一度だって、カルロスにこんな目を向けられたことはない。私はようやくカルロスを怒らせてしまったのだと気がついた。
慌てて両手を胸に抱えて、上目遣いでカルロスを見つめる。
「そうだったのね、ごめんなさい。私、知らなくて……」
「バルゴア領について書面も渡したし、侍女にも口頭で伝えさせた」
「聞いてないわ。困ったわね。侍女の連絡ミスかしら?」
そう呟きながら、『いちいち侍女の言葉なんて、聞いてないわよ!』と内心で舌打ちする。
カルロスは綺麗な顔を私にゆっくりと近づけてきた。
本当ならうっとりとするような場面なのに、空気がピリピリしている。
「念のために、私も君に口頭で伝えたが、それも聞いていなかったのかな?」
「ご、ごめんなさい」
言われてみれば、カルロスが何か言っていたような気がする。つまらない話だったから、聞き流してしまった。
「仕方ないか」
小さくため息をついたカルロスは、いつもの優しい笑みを浮かべた。
「うっかりは君の可愛いところだ。だが、これ以上バルゴア領と問題を起こすわけにはいかない。わかるね?」
「……はい」
カルロスは私の髪にキスをした。
「君は私と結婚して王太子妃になる。今はそのことだけに集中してほしい。他のことは考えないで。絶対にリオに関わってはいけない。君を失いたくないんだ」
その言葉で私は、ホッと胸を撫で下ろした。
なんだ、カルロスはリオに焼きもちを焼いていたのね。結婚式前なのに、私がリオにこだわっているから、あんなにも怒っていたんだわ。
だったら、もうリオには関わらない。私だって結婚式前に揉め事を起こしたいわけじゃない。
私はそっとカルロスの手に触れた。
「わかったわ。絶対にリオにもバルゴア領にも関わらない」
「それがいい」
ふわっと微笑んだカルロスは、本当に美しい。でも、カルロスの優しすぎる性格や、煮え切らない態度は好ましくない。
ディークと二人で私を取り合っていた頃のカルロスは、あんなにも情熱的だったのに……。なんだか、面白くないわ。
カルロスが医務室から出て行くと、代わりにメイド達が入って来た。私の乱れた髪を見て皆、驚いている。
メイド達は、まさか私が荷物のように運ばれてこうなったなんて思わないでしょうね。
メイド達に囲まれながら、私はカルロスの言葉を思い出していた。
『これ以上バルゴア領と問題を起こすわけにはいかない』
『絶対にリオに関わってはいけない』
わかったわ。私はもうリオには関わらない。でも、無礼で生意気なリオやセレナを、このまま許すつもりもない。
だから、私以外の誰かがあの二人に関わればいい。そうね……今のディークはセレナに執着しているから、うまく使えそう。
バルゴア領とも問題を起こさないわ。でも、まだバルゴア家に嫁いでいないセレナにこの責任を取ってもらうのはいいわよね? だって彼女はまだセレナ=ターチェなのだから。
もちろん、カルロスとの約束を守って、結婚式が終わるまで大人しくしてあげる。
でも、私が正式に王太子妃になったら、あの二人にはそれ相応の罰を与えなければいけない。
だって、私はこの国の聖女であり王太子妃であり、そして、将来は王妃になる最も尊い女性なのだから。
「どうして……?」
カルロスは、私の問いには答えず控えていた医師に目配せをする。医師は礼儀正しく頭を下げてから、静かに医務室を出て行った。
他の者も下がらせたようで、医務室には私とカルロスしかいない。
「ライラ」
カルロスは、私の名前を優しく呼びながら、ベッドに座っている私の横に腰をかけた。
「落ち着いて話そう」
「落ち着けって……」
リオに掴まれた腕はまだ痛むし、乱暴に運ばれて私の髪はぐちゃぐちゃになっている。こんな屈辱、今まで味わったことがない。
「こんな状況で、どうして私に、そんなことを言うの?」
今までのカルロスなら、私にひどいことをした貴族達をすぐに処罰してくれた。
だから、今回もリオをすぐに謝罪させて、厳しい罰を与えてくれると思っていたのに。
カルロスは、リオを咎めることすらせず、『ライラにケガがなかったから、この件は気にしなくていい』と言った。
「私が、こんな目に遭わされたのに……。カルロス、あなたはリオを許すというの?」
涙ながらに私が訴えても、カルロスは困ったような笑みを浮かべているだけ。
「私のことを愛しているんでしょう? だったら!」
カルロスは、私の髪を優しく撫でた。
「君のことは、とても可愛いと思っているよ。それに、君やディークは私の恩人だから感謝している」
煮え切らないカルロスの言葉に、私はイライラした。
「だったら、リオをなんとかしてよ! いつものように、早く!」
「ライラ」
さっきとは違い、なぜか冷たさを感じて、私はカルロスを見た。
いつものように穏やかな笑みを浮かべているのに、その瞳は冷ややかだ。
「リオの件に関しては、事前に何度も伝えたはずだ。バルゴア領とは問題を起こしたくない、と」
今まで一度だって、カルロスにこんな目を向けられたことはない。私はようやくカルロスを怒らせてしまったのだと気がついた。
慌てて両手を胸に抱えて、上目遣いでカルロスを見つめる。
「そうだったのね、ごめんなさい。私、知らなくて……」
「バルゴア領について書面も渡したし、侍女にも口頭で伝えさせた」
「聞いてないわ。困ったわね。侍女の連絡ミスかしら?」
そう呟きながら、『いちいち侍女の言葉なんて、聞いてないわよ!』と内心で舌打ちする。
カルロスは綺麗な顔を私にゆっくりと近づけてきた。
本当ならうっとりとするような場面なのに、空気がピリピリしている。
「念のために、私も君に口頭で伝えたが、それも聞いていなかったのかな?」
「ご、ごめんなさい」
言われてみれば、カルロスが何か言っていたような気がする。つまらない話だったから、聞き流してしまった。
「仕方ないか」
小さくため息をついたカルロスは、いつもの優しい笑みを浮かべた。
「うっかりは君の可愛いところだ。だが、これ以上バルゴア領と問題を起こすわけにはいかない。わかるね?」
「……はい」
カルロスは私の髪にキスをした。
「君は私と結婚して王太子妃になる。今はそのことだけに集中してほしい。他のことは考えないで。絶対にリオに関わってはいけない。君を失いたくないんだ」
その言葉で私は、ホッと胸を撫で下ろした。
なんだ、カルロスはリオに焼きもちを焼いていたのね。結婚式前なのに、私がリオにこだわっているから、あんなにも怒っていたんだわ。
だったら、もうリオには関わらない。私だって結婚式前に揉め事を起こしたいわけじゃない。
私はそっとカルロスの手に触れた。
「わかったわ。絶対にリオにもバルゴア領にも関わらない」
「それがいい」
ふわっと微笑んだカルロスは、本当に美しい。でも、カルロスの優しすぎる性格や、煮え切らない態度は好ましくない。
ディークと二人で私を取り合っていた頃のカルロスは、あんなにも情熱的だったのに……。なんだか、面白くないわ。
カルロスが医務室から出て行くと、代わりにメイド達が入って来た。私の乱れた髪を見て皆、驚いている。
メイド達は、まさか私が荷物のように運ばれてこうなったなんて思わないでしょうね。
メイド達に囲まれながら、私はカルロスの言葉を思い出していた。
『これ以上バルゴア領と問題を起こすわけにはいかない』
『絶対にリオに関わってはいけない』
わかったわ。私はもうリオには関わらない。でも、無礼で生意気なリオやセレナを、このまま許すつもりもない。
だから、私以外の誰かがあの二人に関わればいい。そうね……今のディークはセレナに執着しているから、うまく使えそう。
バルゴア領とも問題を起こさないわ。でも、まだバルゴア家に嫁いでいないセレナにこの責任を取ってもらうのはいいわよね? だって彼女はまだセレナ=ターチェなのだから。
もちろん、カルロスとの約束を守って、結婚式が終わるまで大人しくしてあげる。
でも、私が正式に王太子妃になったら、あの二人にはそれ相応の罰を与えなければいけない。
だって、私はこの国の聖女であり王太子妃であり、そして、将来は王妃になる最も尊い女性なのだから。