Re:活 前略旦那様 私今から不倫します
沙羅が寂しそうに笑う。人に話すのも勇気がいるはずだ。
「名前は君の父親が選んだものかもしれないけど、その意味は自分で決めたらいい。……こんなこと言ってもなんの慰めにもならないよな、ごめん」
無神経だったかもしれないと、言葉につまる。
「でも、変わるからこそ尊いものもあるってわかってます」
「うん」
無言のまま沙羅の手をそっと取り、歩き出す。
「辻村さんがこれから見る景色も、人生でただ一度しか見れないものなんでしょうね」
「キリマンジャロを見たいんだ。熱帯雨林に砂漠、そして氷雪地帯。一つの山なのに、いろんな顔を見せてくれる」
「素敵でしょうね」
鮮やかな青色の紫陽花に囲まれた細い道はいつのまにか人気が途絶えて、二人だけだった。
沙羅の頬に手をやる。自分でも少し震えているのがわかる。
「帰ったら、写真を沙羅に見せたい」
「楽しみにしています」
その柔らかな微笑みに、耐え切れずキスをした。
「待っててくれる?」
「はい」
帰国したら、きちんと告白しようと思ったが、それは叶わなかった。