Re:活 前略旦那様 私今から不倫します
辻村は夫の不貞に傷ついた沙羅をひととき慰めてくれただけだ。彼とのことは美しい思い出にするのがいい。もう昔のように無垢な気持ちだけで人を愛せない。
「駄目だよ、沙羅。離婚届に判は押さない。お義母さんだって悲しむ」
「それとこれとは別だわ」
母の話を持ち出すのは卑怯だ。だが、余命いくばくもない母に娘夫婦のこじれにこじれた離婚話など聞かせるのは、あまりに酷だとは思っていた。
「とにかく離婚はしない。沙羅にどれだけ恨まれても、別れる気はない」
「勝手だわ」
「お義母さんに顔出したら、喜んでくれたよ。悲しませるようなことはやめよう」
誠は言外に脅迫している。娘には幸せな結婚をと願っていた母に、自分たちの破綻した結婚生活のことを知られたくないという沙羅の弱みに付け込んでいるのだ。
「お義母さんのためにも、やり直そう。そのためならなんでもするから」
腕をつかまれて、背筋に冷たい汗が流れた。