Re:活 前略旦那様 私今から不倫します

 同時に、沙羅の気持ちが1ミリも残っていないのだということを痛感した。麗香への嫉妬や恨みすらもない。沙羅の中では、もう終わったことなのだと。

 ずっと心の中にあった未練が、断ち切らなければならないものだとようやく悟る。
 自分が気づかなかっただけで、沙羅をたくさん傷つけたのだろう。子供が欲しいというのに、まだ焦る必要はないとろくに話も聞かずに、治療にも協力しなかったこと。
 遊びで沙羅を捨てるつもりはないから大事にならないと、高をくくっていたこと。

 いつからか沙羅の笑顔がくもっていたことに気づかなかった。
 幼少期に沙羅が父親に捨てられた傷をえぐったのは自分にほかならない。

 麗香とのことを疑いながら、一緒に暮らすのはどれほど辛かっただろう。自分にとっては軽い気持ちでも、沙羅が辻村とどうにかなるかもしれないと思ったことで初めて気持ちを考えることができた。
 大切なものを奪われる屈辱と悲しみは、絶望的に深い。
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