Re:活 前略旦那様 私今から不倫します

 そう言って父は香典とは別に沙羅に分厚い封筒を渡し、線香をあげて帰っていった。
見ると中には50万円ほど入っていて、それが今父親にできる精一杯だったのだろうと思うと複雑な想いに駆られた。

 あとから親戚に、父が今一人暮らしをしていることを聞いた。詳しい事情はわからないし、聞きたくもないが、あの寂しい背中を見るとなんとも言えない気持ちになった。

 お通夜と葬儀を終え、狭いアパートの部屋に一人帰ると、猛烈な孤独に襲われた。
 
 辻村とは、彼の仕事が多忙になったことや母のことで離婚以来ほとんど会っていない。そんな気持ちになれなかったというのも大きい。
また同じ苦しみを繰り返すかもしれないと思うと、もういっそ一人で生きたほうが楽に思えた。

葬儀にかけつけてくれ、そのあと求婚された。来年から仕事でフランスと日本を往復する暮らしになるからついてきてほしいと。

『こんな時に言うことじゃないのはわかってる』
『今はそんなこと考えられません』
『まだ心の整理がつかないのはわかってるけど、待つから』  
『私、結婚なんてこりごりです』
『遠回りしたけど、俺は沙羅と一緒に生きていきたい』
『少し時間をください』

 母のことで、出社が難しい時は、テレワークでできる仕事を回してくれて、沙羅を支援してくれた。
恋人だからそうしたわけではなくて、普段から従業員の私生活にも極力配慮して経営していた。
 そういうことができるのも商才があって、経営資金に余裕があるからだ。
 結局、辻村の好意に甘えていた。けれど、もし辻村の愛情を失ったら、どうなってしまうのかと思う。

 ──これからのことなんて、考えられないよ。

 

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