Re:活 前略旦那様 私今から不倫します

 軽く言ったつもりだが、辻村が心底申し訳なさそうな顔をして、言わなければよかったと後悔した。
 でも事実、体に傷ができたところでなんだというのだろう。誰かに見られることもない。誰も沙羅に興味はないだろう。夫の誠さえも。

「できることはさせてほしい」
「私こそ……これからもあのお店で働きたいんです。いいですか?」
「当然だよ。沙羅の評判はもう耳に入ってる」
  
 無意識だろうが、昔のように名前で呼ばれ、どきりとする。

「私、本当に生きがいとかなくて、ここ数年ただ漫然と年を取るのが怖かったんです。でも今は働けて、幸せなんです」
「ありがとう」

 医師には問題なさそうだが、頭を打ったので三日は安静にしたほうがよいと言われた。

「送るよ。本当は旦那さんが来た方がいいんだろうけど」
「一人で帰れます。仕事中だと悪いから、メッセージだけ送りました」

 電話をして、他の誰かといたらと思うと怖かった。既読マークはついていない。

「家族なのに? 仕事より大事だろう」

 その問いに、沙羅が黙り込むと、出すぎたことを言ったと辻村が謝った。

 辻村の車で家に着くと、どっと疲れが出て朝まで眠ってしまった。
 明け方になって誠が帰ってきた気配を感じたけれど、起き上がることもできず、結局昼過ぎまで眠り続けてしまった。


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