【コミカライズ原作】Re:活 前略旦那様 私今から不倫します
「変わるからこそ美しいってことだと思うけど」
「私は変化が苦手なんです」
優しくて、母を大切にしていた父は、別の女性を選び、沙羅のことも捨てた。時が経ち、人が変わってしまうことの恐ろしさは幼少期に心に刻み込まれた。
──私は変わらないものを求めている。
引っ越さない友達。いつまでも元気なおばあちゃん。永久に死なないペット。心変わりしない恋人。
──そんな絶対的なものは存在しないとわかっている。でも……。
人との関係に一歩踏み出すのに勇気がいるのも、過去のトラウマのせいだろう。心に根付いた深い人間不信と抑圧された憤り、失望。親という絶対的に自分に愛情を注ぐべき人間に裏切られた悲しみ。
こういったものを乗り越えないと、普通の恋愛は難しい。
男性と付き合うことに対しても、どこかしら斜に構えてしまって同年代の友人たちのように浮かれたり、恋愛に没頭することができない。
「沙羅双樹の花言葉、知ってる?」
首を振る。花言葉に興味はない。
「愛らしい人、清楚な美しさ。ぴったりじゃないか」
辻村の言葉に耳まで赤くなる。
──こんなこと言う人なんだ。
どちらかといえば、口数の少ない朴訥な人間というイメージだった。
「そうだ。これ。よかったら。インドに行った時に撮ったんだ」
そう言って、鞄からアルバムを取り出し、そこから写真を一枚沙羅に渡した。
インドの村を訪れ、地元の人々が、沙羅双樹の花が開くのを待つという古くからの伝統行事に参加をし、一緒にこの瞬間を見ようと村の人々に加わった時のものだという。