来世でまた会おう。
事故
母が泣いている。
きっと私が悪いことをしたんだ。
「ごめんね、お母さん。良い子にするから泣かないで」
それでも母は泣き止んでくれなかった。
私は、よく母に心配されているみたいだ。どうやら姉に比べて病弱らしい。
姉は私の二つ上、いつも私にちょっかいを出してくる。まぁきっと妹が可愛いんだろうと私は自分に言い聞かせていた。
ある日の土曜日、私たちは家族旅行という名目で千葉にある海水浴場に向かった。
父は普通のサラリーマン。旅行にお金を使うのは勿体ないと言う理由で、今年は海に行くことになった。
運転中の父が「ほら、見てみろ。もうすぐ到着するぞ」嬉しそうな顔でそう言う。
後部座席で寝転んでいた私は、そっと体を起き上がらせ外の風景を眺めた。
「ちょっとお父さん、海なんて見えないよ。トンネルの中じゃん」オレンジ色の蛍光灯のせいか、影に覆われた父の姿は私をからかってる様に映る。
「あ、でも見て綾。トンネルの奥から海が見えるよ」姉がそう言うと、私は窓ガラスに顔を押し当て、急いで窓を開けた。
トンネルを抜けると、そこは一面真っ青な波と、まばらに見える白模様。微かに匂う潮の香りに、私達姉妹は興奮していた。
「お姉ちゃん、変な匂いがするよ」私は顔を窓の外に出した。
姉も窓から顔を出し「綾知らないの、これが潮の香りって言うんだよ」と自慢気に言ってきた。
私達が窓から顔を出してることに気づき「ちょっと二人とも、危ないから顔を戻しなさい。雪もお姉ちゃんなんだから注意しなきゃダメでしょ」心配そうに母は言う。
続けて母は「顔を戻さないと持ってきたお昼、食べさせてあげないよ」意地悪そうに言う母、その表情は少し笑ってる様にも見えた。
「はーい」私達二人は声を揃えながら車の中に顔を戻す。
それから十分ほど経つと車は海水浴場の駐車場へと着いた。
先に車から降りていた姉は、右手を顎の下に移動させ、パタパタあおぎながら「あつ〜い。海に行ってるね」そう言うと小走りで砂浜に向かった。
「え、お姉ちゃんだけズルいよ」私は姉を追いかけた。
父は楽しそうにしている姉妹を見て「だろ、やっぱ海に来て良かっただろ?」満足気に母に言った。
「よく言うわよ。夫の稼ぎがもっと良かったら海外にでも行けたんだけどな〜」冗談混じりに皮肉を言う。
父の姿勢が少し下がった。母の一言に応えたようだ。
海岸から少し離れた砂浜に、父はパラソルを立てようとするが、どうやら扱いには慣れていないようだ。戸惑っている父の姿を見て私達家族は笑った。
暑く熱された砂が私の足に触れた。
「ちょっと、お父さん。ここの砂とっても熱いよ」足をパタパタ揺らしながら言った。
私の様子を見た父が言う。
「熱いんなら海に足を着けてきなさい」 父の言葉を聞いた母は、食い気味に「海に近づくんなら浮き輪つけなさいよ」事前に膨らませてあった浮き輪を私に渡した。
ドーナツ型をしたその浮き輪は、半分ピンクでもう半分が透明。透明な部分にはハイビスカスの柄が入っていて私のお気に入りだ。
浮き輪をお腹につけながら私は小走りで海へ向かう。海岸に近づくにつれ、足に伝わる熱がゆっくりと引いていき、砂を蹴る感触はだんだんと重くなっていく。
海に足先が触れると、海水が冷た過ぎて足を引っ込めてしまった。身体に冷たさが慣れるまで私はそれを繰り返した。
「行くよ綾」と私の腕を姉が掴み、そのまま引っ張り海の中へ連れて行かれた。勢いよく海中に入ると、冷たさのあまり身体全身からゾワッと鳥肌が立ち、先ほどまでの暑さがまるで嘘かのように冷え込んだ。
水面の上から見える足元は幻想的に歪んで、目をジッと凝らすと、自分の顔が反射して映し出される。私はそのことに驚きながらペロっと唇を舐めた。口いっぱいに塩辛い味と潮の香りが広がった。
時間が経つと海水の温度にも慣れてくる、いや、むしろ暖かいと思えるくらい心地いい感覚になる。私はゆっくりと全身の力を抜き、水面に身を任せ仰向けになり空を見た。
上空を見上げると、一面びっしり淡い青色に染まっている。西からは太陽の光が波に反射してしまい、チラチラと私の視界を奪っていく。
私は瞳を閉じ、後頭部を少しばかり水面に下げた。じゅぽじゅぽ、と耳の中に海水がはいる。それと同時に先ほどまでの雑音は、一切聞こえなくなった。
私がリラックスをしていると、水中からでも微かに聞こえる「あやー、あやー」と言う姉の声がエコーの様に響いてきた。
私は起き上がり姉に返事をしようとした。
あれ、右足が動かない。え、なんで?
「ちょ、、、おね、、え、、」急に右足が動かなくなり私はパニックになった。
助けを呼ぼうと大声を出そうとしたが、逆に海水を飲んでしまい呼吸もままならなくなってきた。
左足だけで立ち泳ぎをしてみても、水面から上手く顔が上がらない。
浮き輪は、浮き輪はどこだ。先ほどまでつけていたはずの浮き輪が無くなっていることに今気づいてしまった。
すると、呼吸をすることが辛くなり、視界がゆっくりと暗くなった。
きっと私が悪いことをしたんだ。
「ごめんね、お母さん。良い子にするから泣かないで」
それでも母は泣き止んでくれなかった。
私は、よく母に心配されているみたいだ。どうやら姉に比べて病弱らしい。
姉は私の二つ上、いつも私にちょっかいを出してくる。まぁきっと妹が可愛いんだろうと私は自分に言い聞かせていた。
ある日の土曜日、私たちは家族旅行という名目で千葉にある海水浴場に向かった。
父は普通のサラリーマン。旅行にお金を使うのは勿体ないと言う理由で、今年は海に行くことになった。
運転中の父が「ほら、見てみろ。もうすぐ到着するぞ」嬉しそうな顔でそう言う。
後部座席で寝転んでいた私は、そっと体を起き上がらせ外の風景を眺めた。
「ちょっとお父さん、海なんて見えないよ。トンネルの中じゃん」オレンジ色の蛍光灯のせいか、影に覆われた父の姿は私をからかってる様に映る。
「あ、でも見て綾。トンネルの奥から海が見えるよ」姉がそう言うと、私は窓ガラスに顔を押し当て、急いで窓を開けた。
トンネルを抜けると、そこは一面真っ青な波と、まばらに見える白模様。微かに匂う潮の香りに、私達姉妹は興奮していた。
「お姉ちゃん、変な匂いがするよ」私は顔を窓の外に出した。
姉も窓から顔を出し「綾知らないの、これが潮の香りって言うんだよ」と自慢気に言ってきた。
私達が窓から顔を出してることに気づき「ちょっと二人とも、危ないから顔を戻しなさい。雪もお姉ちゃんなんだから注意しなきゃダメでしょ」心配そうに母は言う。
続けて母は「顔を戻さないと持ってきたお昼、食べさせてあげないよ」意地悪そうに言う母、その表情は少し笑ってる様にも見えた。
「はーい」私達二人は声を揃えながら車の中に顔を戻す。
それから十分ほど経つと車は海水浴場の駐車場へと着いた。
先に車から降りていた姉は、右手を顎の下に移動させ、パタパタあおぎながら「あつ〜い。海に行ってるね」そう言うと小走りで砂浜に向かった。
「え、お姉ちゃんだけズルいよ」私は姉を追いかけた。
父は楽しそうにしている姉妹を見て「だろ、やっぱ海に来て良かっただろ?」満足気に母に言った。
「よく言うわよ。夫の稼ぎがもっと良かったら海外にでも行けたんだけどな〜」冗談混じりに皮肉を言う。
父の姿勢が少し下がった。母の一言に応えたようだ。
海岸から少し離れた砂浜に、父はパラソルを立てようとするが、どうやら扱いには慣れていないようだ。戸惑っている父の姿を見て私達家族は笑った。
暑く熱された砂が私の足に触れた。
「ちょっと、お父さん。ここの砂とっても熱いよ」足をパタパタ揺らしながら言った。
私の様子を見た父が言う。
「熱いんなら海に足を着けてきなさい」 父の言葉を聞いた母は、食い気味に「海に近づくんなら浮き輪つけなさいよ」事前に膨らませてあった浮き輪を私に渡した。
ドーナツ型をしたその浮き輪は、半分ピンクでもう半分が透明。透明な部分にはハイビスカスの柄が入っていて私のお気に入りだ。
浮き輪をお腹につけながら私は小走りで海へ向かう。海岸に近づくにつれ、足に伝わる熱がゆっくりと引いていき、砂を蹴る感触はだんだんと重くなっていく。
海に足先が触れると、海水が冷た過ぎて足を引っ込めてしまった。身体に冷たさが慣れるまで私はそれを繰り返した。
「行くよ綾」と私の腕を姉が掴み、そのまま引っ張り海の中へ連れて行かれた。勢いよく海中に入ると、冷たさのあまり身体全身からゾワッと鳥肌が立ち、先ほどまでの暑さがまるで嘘かのように冷え込んだ。
水面の上から見える足元は幻想的に歪んで、目をジッと凝らすと、自分の顔が反射して映し出される。私はそのことに驚きながらペロっと唇を舐めた。口いっぱいに塩辛い味と潮の香りが広がった。
時間が経つと海水の温度にも慣れてくる、いや、むしろ暖かいと思えるくらい心地いい感覚になる。私はゆっくりと全身の力を抜き、水面に身を任せ仰向けになり空を見た。
上空を見上げると、一面びっしり淡い青色に染まっている。西からは太陽の光が波に反射してしまい、チラチラと私の視界を奪っていく。
私は瞳を閉じ、後頭部を少しばかり水面に下げた。じゅぽじゅぽ、と耳の中に海水がはいる。それと同時に先ほどまでの雑音は、一切聞こえなくなった。
私がリラックスをしていると、水中からでも微かに聞こえる「あやー、あやー」と言う姉の声がエコーの様に響いてきた。
私は起き上がり姉に返事をしようとした。
あれ、右足が動かない。え、なんで?
「ちょ、、、おね、、え、、」急に右足が動かなくなり私はパニックになった。
助けを呼ぼうと大声を出そうとしたが、逆に海水を飲んでしまい呼吸もままならなくなってきた。
左足だけで立ち泳ぎをしてみても、水面から上手く顔が上がらない。
浮き輪は、浮き輪はどこだ。先ほどまでつけていたはずの浮き輪が無くなっていることに今気づいてしまった。
すると、呼吸をすることが辛くなり、視界がゆっくりと暗くなった。
< 1 / 5 >