恋と、涙と、先輩と
…言葉が出なかった。


あっくんが好きそうと思って選んだこの浴衣も、少しでもかわいく見られたいと思ってがんばったこの髪型も――。

そのすべてが無駄なものに。


わたしはしばらくの間、その場で呆然としていた。

空が薄暗くなり始め、気づいたらわたしがここへきてから1時間近くがたとうとしていた。


帰ろうかな…。


そう思って、ベンチから立ち上がったそのとき――。


「…藍原!」


街灯が灯り始めた公園に響く、わたしを呼ぶ声。

走ってきたのか、肩でハァハァと息をして。


やっぱりわたしは1人なんだと落胆していたところへ、まるでヒーローのように現れた羽賀先輩の姿にわたしは思わず目の奥が熱くなった。


「羽賀先輩…!」


あふれる涙。

その涙がわたしの目元からこぼれ落ちそうになる前に、羽賀先輩はぎゅっとわたしを抱きしめた。
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