Close to you


「いえ、こちらこそ……」



 私は軽く頭を下げて、そそくさと二階に上がろうとした。



「あの」



 後ろから、家政婦さんの声がかかった。


 思いのほか大きめの声に、私はドキドキしながら振り返る。


 なにかを決心したような顔の家政婦さんが、真っ直ぐに私を見つめてくる。


 まるで射抜くような視線……。


 心の奥まで見透かされそうな強さに、私はつっけんどんに「なにか?」と返した。



「真弓様はいつもお食事を召しあがらないのですか?」


「知らない」


「愛弓様は、真弓様についてなにも存じあげない、ということですか?」


「あの子のことなんてなにも知らない」


「……さようですか」



 私はもうとにかくその場に居たくなくて、階段を駆けあがろうとした。



(待って……これってチャンスじゃない?)



 足を踏みだそうとするのを止めて、私は家政婦さんに改めて向きなおった。



「ちょっとしたお願いがあるんだけど……いい?」
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