Close to you
2.みじめな恋

あのベンチで



 それから3日後──。


 私はいつものように、あのベンチに座ってバスを待っていた。


 今日は地理の用語集を黙読していた。熱帯や乾燥帯など、気候帯それぞれの特徴をいつでもそらで言えるよう、声には出さず小さく口を動かす。


 家に帰ったら塾の準備をしないといけないから、こうしてベンチに座っているときか、バスに乗っているときじゃないとできない。時間は有限だ。


 ……なのに、お構いなしに話しかけてこられるのは正直、困る。



「ちょっといい?」



 視線をそっと上げれば、この間会ったばかりの彼がいた。


 鋭い目つきはまだドキッとするけど、奥野さんの弟だと思うと前ほど怖くはない。というか、よく見るとそっくりだな……。


 鋭くて、こちらの心の底まで見透かしてしまいそうな、真っ直ぐな瞳。


 ……うん、やっぱり苦手だ。


 それでも、真弓のことがあるから無視するわけにもいかない。
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