Close to you
「真弓には伝えたから、心配しないで」
「裕子に頼んで?」
知らない名前が出てきたけど、話の流れからして奥野さんの名前だろう。
「だれかに頼んじゃいけない、なんて言われてないでしょ」
私がそう言いかえすと、奥野くんは黙って頬をかいた。
「ケンカしてんじゃなくて、仲悪いの?」
「え」
「真弓と」
奥野くんは困惑した表情で私を見た。指先が凍りついたみたいに冷たくなっていくのを、どこか他人事のように感じていた。
「……全然話さないから」
冷静に、事実だけ伝えようと思っても、声の震えが抑えられない。
「仲悪いとか、それ以前の問題」
やっとそれだけ言いきった。視線を下にずらしたりしないで、彼の目を見ながら言えた。
でもそんなのは普通のことで、声が震えてしまう私ほうがおかしい。
現に、奥野くんは目をすがめて不審者を見たような顔になっている。