Close to you
私がのけ反ると、奥野くんは視線をさまよわせながら離れた。西日のせいか顔が赤く染まって見える。
「いや、うん、大丈夫ならいいんだ、うん」
裏返った声でなにか呟いたと思ったら、すごく真面目な顔に変わった。
私も思わず背筋を伸ばす。
「とりあえず、俺は真弓の説得を続けるからそっちも頼む」
「ありがとう、こっちもちゃんと話してみる」
自然に、するりとそんな言葉が出てきた。自分でもびっくりした。
奥野くんは私の言葉を聞くと、顔をパァッと輝かせる。まずい、これもう撤回できないやつだ。
さらに間の悪いことに、時間通りにバスが来てしまった。いつもなら数分遅れてくるのにどうして今日は……。
「それじゃ、お互い頑張ろうな!」
仲間を見つけて希望に溢れる奥野くんとは反対に、私は顔を引きつらせて無理やり笑顔を作るしかなかった。
(どうしよう……私、本当に真弓と話せるの……?)