Close to you


「アンタ、光永愛弓?」



 その低い声に顔を上げる。


 上げてから、「しまった」と後悔した。


 着崩した制服、鋭い目つき、ツーブロックの髪型──。


 おおよそ、“絶対に関わりたくない”人種だったからだ。


 ……それでも、顔を上げて目を合わせてしまったんだから、もうどうしようもない。



「……そうですが、なにか?」



 私はそっとカバンを探り、スマホをつかんだ。


 いつでも警察に通報できるようにしておかないと……。


 このバス停付近には──今の時間は──運の悪いことに人がいない。いつもなら2、3人くらいは通るのに、今日は寒さのせいか外に出る人は少なかった。



(それでもやるしかない)



 私はツバを飲みこんで、相手の息づかいさえ見逃さないよう、全身を緊張させた。


 心臓が耳元で鳴っているような気分になる。手のひらが汗をかいて、スマホを落としそうになる。
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