Close to you


「愛弓、お風呂に入ったの?」



 急いで引き出しに手紙と写真を突っこんだ。



「すぐ入ります」



 ドアを開けると、すぐそこにお母さんが立っていた。


 お母さんは怒っていなければ、穏やかで粛々とした美人だ。


 背中までの髪は黒く艶やかだし、その髪が囲む顔も卵型で余白は一切ない。柔らかな柳眉は美しく、丸い瞳は出目で涙袋がふっくらしている。


 並んでいると姉妹と勘違いされることがよくあって、その度にお母さんは嬉しそうに否定していた。


 赤いルージュを引いた唇が、完璧な角度で笑みを形作る。



「就寝時間の1時間前よ、急ぎなさい」


「はい」


「ミネラル入りの麦茶を用意したから、入る前と後に必ず飲むように」


「はい」



 お風呂に入ったらかけ湯をし、湯船に浸かってから身体を洗い、また湯船に浸かってからお風呂を出る。


 それが、お母さんに決められたお風呂の入り方。
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