Close to you


 友だち思いの奥野くん。


 優しくて、真剣で。


 お姉さんも思いやりのある人で。


 きっと、親からも友だちからも大事にされてすごしてきたんだろう。


 絵に描いたような、幸せな環境で。


 自分には、世にはびこる不幸なんて関係ない……そんな生活を。


 目覚まし時計がけたたましく鳴りだして、私は思考を中断した。もう起きないといけない。


 重いまぶたに負けそうになる自分を叱って、思いきって跳ねおきる。


 身体が温かいうちに素早く着替えてしまえば、少しはマシになった。


 ドアを開けて廊下に出れば、お母さんも同じタイミングで部屋から出てきた。



「お母さん、おはようございます」


「ええ、おはよう」



 いつも通りのあいさつを交わす。



「ねぇ、愛弓」


「はい」


「今朝はずいぶん早起きだったのね」


「喉が渇いたので、キッチンで水を飲んでいました」



 冷ややかに光っていたお母さんの目は、元の柔らかさに戻る。
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