Close to you
お母さんの機嫌が氷点下まで下がっていく気配がする。
「そこらへんは察して行動してくださる?」
「承知いたしました」
奥野さんは淡々と返し、煎れたばかりの煎茶を私とお母さんの席まで運ぶ。
私はお母さんが嫌味を言っている間、今朝のメニューについて考えるようにした。
湯気を立てているご飯にお味噌汁、鮭の切り身、ほうれん草のお浸し──。
和食の定番、といっても過言ではない品々は、美しく盛りつけられていて、レストランのディスプレイとして飾られていてもおかしくない。
「愛弓、いただきましょう」
「はい」
切りかえたらしいお母さんが、私にそう促した。その表情はいつもと同じで、私を疑っている様子はない。
私も切りかえてお味噌汁のお椀を手に取った。指先からじんわり温かくなるような気がする。
(真弓、いつでもいいから手紙と写真を見てくれるといいな……)
そう願いながら、箸をつけた。