Close to you
「愛弓様に手紙を書いたときには、ほぼ終わっておりましたので」
奥野さんは目を細めて、「あとは被害者の聞きとりだけでした」と返した。
「家政婦の前は探偵だったの?」
あまりにも手際が良すぎる、と言外に匂わせれば、奥野さんは肩をすくめた。
「さて、どうでしょうね」
「ずるい、教えてよ」
「奥様がそろそろ帰っていらっしゃいますよ」
私は「ずるい」と再びつぶやいた。本当にずるい。もう起きて部屋に戻るしかないじゃない。
私は起きあがって背伸びをした。パキパキと音が鳴る。
「奥野さん、ご苦労様でした」
私がそう言うと、奥野さんは柔らかく笑った。
「ではこれで失礼します」
オーバーコートをはおった奥野さんは、相変わらずキビキビした動作で一礼すると玄関のドアを開けた。
一瞬だけ、冷たい空気がふわりと忍びこんでくる。
でもすぐに解けて、なくなってしまった。