Close to you
「ごめん、俺の」
奥野くんはそう言うと、ズボンのポケットから取りだしながら私に背中を向けた。
私はなんとなくホッとして、メモ帳をカバンにしまう。
「えっ!?」
奥野くんの大声に、私はびっくりして顔を上げた。それと同じタイミングで、奥野くんがこちらを振り向いた。
「真弓が、病院に運ばれたって、姉ちゃんが」
真弓が。
病院に。
奥野くんの言葉が、頭のなかをぐるぐる回る。身体の感覚が指先から、足先からなくなっていって、なにも、なに、も──。
「光永さん!」
奥野くんに肩をつかまれて、私の意識は現実に戻ってきた。
間近に奥野くんの力強い瞳があって、怖いはずのそれが今はただ頼もしく見えた。
「俺、あっちに自転車停めてるから、乗って」
有無を言わさない口調に、私は一も二もなくうなずいた。
「よし、行こう!」