Close to you


「あの……大丈夫か……?」



 ──現実逃避は終わりにしよう。


 私は心配そうに顔をのぞきこんでくる奥野くんを見て、腹をくくった。


 奥野くんの手にはナースコールが握られている。きっとこれで看護師さんを呼んでくれたんだろう。



「……ありがとう、もう大丈夫」



 私がそう言うと、奥野くんはまだ眉を八の字にさせながらもうなずいた。



「奥野さん、私、今日はここに泊まります」



 ドアを閉めてくれた奥野さんにそう宣言すれば、彼女は無表情のまま「いけません」と返した。



「愛弓様は未成年です、ここはどうか私にお任せください」


「でも……」


「俺、送っていくから」



 お母さんはあんな状態だし、真弓を放ってはおきたくない。


 だけど、奥野さんが言っていることは正しい。


 未成年の私ができることなんて、たかが知れている。


 せいぜいが、真弓のお見舞いに行くくらいのものだろう。
< 55 / 71 >

この作品をシェア

pagetop