Close to you
最初に駆けつけたのとは違い、余裕をもって真弓の病室を目指す。
右足を、左足を踏みだす度に、終わりのときが近づいているのだと実感した。
ついに真弓の病室までたどり着いて、私はスライド式のドアを開けた。
「光永さん……」
奥野くんが、目を見開いて私を見つめる。
バクバクとうるさい心臓を隠したくて、私はわざと目をすがめた。
「知りたいんでしょ、お姉さんのこと」
私が先手を取るように言うと、奥野くんは「教えてくれ」と短く言った。鋭い目つきはより鋭くなっている。
「裕子が光永さんちでネックレスを盗んだ
なんて、俺はどうしても信じられない」
「盗んでなんかないよ」
私は事実だけを率直に述べた。
「お母さんがわざと奥野さんのカバンに入れたの」
「……知ってたのか」
「知ってた」
奥野くんが、「ならどうして?」と聞く前に、私は暗記していたシナリオを思いおこし、唇を歪ませた。