Close to you


 奥野くんの目が、赤く光ったような気がした。



「それがアンタの本音か」



 だけどそれはやっぱり気のせいで。


 氷よりも冷たい眼差しが、私を貫いた。



「アンタの気持ちは、よくわかったよ」



 そう言うと、奥野くんは足早に病室を去っていった。


 ドアが閉められる音を聞きながら、眠りつづける真弓に目をやった。


 ぴくりとも動かない頬を見ていたら、視界がにじんで戻らなくなった。鼻の奥がツンする。



(泣くな)


(私には、そんな資格はない)



 冷静な自分がそう言いきかせても、涙はあとから溢れてきてどうしても止められない。


 私はしばらくその場で、孤独に、静かにすすり泣いていた。


 このときだけはもう、お母さんに叱られるとか真弓への罪悪感とか、全てすっ飛んで自分のためだけに泣いていた。


 そろそろ面会時間も終わる時間だろうか。


 夕陽が落ちて、地平線の近くだけが赤く染まるころ。


 忙しない足音がして、病室のドアが開かれた。
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