Close to you
「お母さん……」
「愛弓……どうしてまた裏切ったの?」
フラフラした足取りでお母さんが近づいてくる。
私を守るように、お父さんがお母さんの前に立ちふさがった。
「おまえには、もう家のことは任せられない」
「愛弓、あの日、お母さんと約束したよね?」
お母さんは気にせず私に話しかけてくる。
お父さんのことなんか、まるで眼中にない。
それでもお母さんを止めようとするお父さんをさえぎって、私は前に出てお母さんと向きあった。
「愛弓!」
私を押しとどめようとするお父さんの手を握った。「大丈夫」と伝わることを願いながら。
願いは正しく伝わったらしく、それでも心配そうな顔で私の隣りに立つ。
(ありがとう、お父さん)
大丈夫、ちゃんと話せる。
私はお母さんを見た。さっきと変わらず、感情のない瞳が私を見つめている。