Close to you
お父さんはそう言うと、お母さんを連れて家のなかに入っていった。
私はなにをするでもなく、ぼんやりと家の周りを見回して、その場にしゃがみこんだ。
(言ってしまった)
清々しいような、後悔するような、反対の気持ち同士が混ざりあう。
少し汚れたパンプスの先を見ていたら、男もののゴツいスニーカーが目に入った。
ゆるゆると視線を上げると、心臓が大きく波打った。
「あ……」
「……警察いくってホント?」
とっさに逃げようとして、腕をつかまれる。
「離して!」
「……好きって言え」
「は……?」
私は奥野くんを睨みつける。
「ふざけないでよ……私を許さないくせに!」
奥野くんの目に映る私を見た。
目は血走り、歯茎がむき出しの、醜い顔。
奥野くんどころか、だれの同情にも値しない。
「ウソ吐いてもいい」
奥野くんは真っ直ぐに私を見つめる。
「でも逃げるのは許さない」