Close to you
違う、違うんだよ。奥野くん。
私は卑怯者の臆病者で、お父さんが帰ってきたとたんに手のひらを返して、自分の保身ばっかり考えるような、薄汚い子で。
好きだなんて、言えるわけがないんだ。
「こんなとこにいないで、お姉さんのとこにでも行って!」
「返事聞くまで行かない」
私の初恋は、踏み潰して最低の思い出にしないといけない。
奥野くんには、思い出すのも忌々しい記憶にしないといけない。
それなのに。
痺れを切らした私が、奥野くんの肩を押そうと伸ばした手をつかまれて。
ぐしゃぐしゃの顔を、真っ直ぐな目と見合わせてしまったら。
……もうダメだ。
「許されたい」
「許す?」
「こんな、どうしようもない……自分だけが大事な私を、許されたい」
「……それは」
わかってる。
奥野くんに許してもらうことじゃない。私自身が、許さないと。
でもそれは、すぐには無理だから。
「私が、私を許せるようになったら」
「私が、好きだと認められるようになったら」
「もう一度、会いに来て」
まるで懺悔するみたいに言うと、そのまま抱きしめられた。
「待ってる。何年でも、何十年でも」
奥野くんがそんなことを言うから、私はますます涙を止められなくなった。
──完──