彼をその気にさせる方法~ヤツと私の甘恋戦争。そう簡単には勝敗つきません~
「1回切りで良い。だからお願いします!」

周りは賑やかにお酒を囲んでるのにこの一角だけ冷たい空気が漂ってる。
まあ…言わば面接会場みたいだ。

(めっちゃ怖い…)

呆れた表情の男にもめげず私は一枚板のテーブルに頭を擦り付け彼から発される言葉を待った。

「で?」

勇気を振り絞れるだけ絞って今日この男を飲みにを誘ったのに。

えっと…
オーラが北極…南極…寒すぎる!!

冷めた目で私を見るこの男にまたも絞りカスしか出ないはずの勇気をまた振り絞り、

「お金は払うし!迷惑はかけないから」

その言葉に目の前の男の綺麗な眉がピクッと動いた。

「金って…そんなに処女捨てたいの?」

バカにした顔にちょっとイラつくけどここは怒るわけにはいかない。

とにかく下手(したて)に!
願い成就の為に我慢!

「ハッキリと言わないで…貰えます?」

言葉にされると恥ずかしくなる。

我慢、我慢よ千波!
この男はいつもこうだし!!
優しい言葉を知らない!!
オブラートって大人の優しさですよね?

(でも…)

この男以外に頼めそうな人周りに居ないじゃない?
後腐れなくて…でもイケメンで口がかたい。

選り好み出来る事では無いけど初めての相手は少しでもイケメンが良い。

「仕事が理由って本当?」

「うっ…うん」

どうにか頷いて顔面を強ばらせながら一世一代の大嘘を付いた。

「こ…これです」

擦り付けてたテーブルにスーッとIandR trading company(アイアンドアール総合商社)と書かれたA4サイズの封筒を差し出した。

「これが内容ね…」

“心が震える家”と大々的に書かれたプレゼン内容に呆れた表情を浮かべる。

「これとお前の初めてとどう関係すんの?全く理解出来ない」

そう言って資料を置いて私に江戸切子のお猪口を突きつける。

(はいはい…お酌しますよ)

私は並々と冷酒をそそいで顔色を伺った。

「私も心が震えるって分かんなくて。そしたら璃子(りこ)が1回やっちゃえば分かるって…」

璃子こと浮橋 璃子(うきはし りこ)は大学時代からの友人でIandRの総務部に在籍する同期。

「あいつの脳はどうなってんの?」

(璃子の脳内は…っと。)

円グラフにすると4分の3が恋愛で残りが仕事とお金で出来てる。
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