旗をふれ!
それ以降の演技は最悪だった。
セリフを間違えた。
立ち位置を間違えた。
演目がぐちゃぐちゃになった。
声は小さくなり、演技の身振りにも覇気がなくなる。
挙句の果てに、涙があふれてくる。
傷み。
恥ずかしさ。
悔しさ。
惨めさ。
ありとあらゆる感情が、傷口と一緒に私の胸を痛めつける。
頬に流れた涙が、傷口を容赦なく刺激した。
その痛みが、私からすべての自信を奪っていった。
そんな中で、これまでの練習風景が走馬灯のように頭に流れ始めた。
夏休み、毎日学校に集まってみんなで考えた応援歌や振り付け。
放課後、最終下校時刻まで何度も何度も繰り返した練習。
応援団みんなで各クラスを回って、応援歌や振り付け指導をした日々。
白組全員集まっての応援練習では、声や手の動きがそろうまでしつこく繰り返した。
共に時間を過ごし、ともに課題を乗り越え、気持ちを分かち合い、私たちは一つになっていった。
そのすべてが、無駄になる。
私のせいで。
こんな私の失敗で、その日々が、その時間が、すべて、無駄になる。
__ダメだ。もう優勝、できな……
「吉川さんっ」
その鋭い声に、はっとなった。
ぱっとそちらを見ると、焦燥を湛えた表情で口をパクパクさせている星君を認めた。
「あいさつっ……」
そう口元を読み取った瞬間、私の視界に空を向くスターターが見えた。
__制限時間……
そこまでわかっているのに、やっぱり声が出なかった。
口はぽっかり空いているのに、そこからは、浅い息しか出てこない。
__ダメだ……私じゃ……
「これで 白組の 応援を 終わります ありがとうございました」
そう言ったのは、星君だった。
星君の、咄嗟の判断だった。
__やっぱり……星君じゃなきゃ……
白組全員の「ありがとうございました」の掛け声が終わったと同時に、パンッと乾いた発砲音が鳴った。